いつも俺と司馬は昼休みになると屋上で数学の勉強会を開く。
辰が
インテリっぽい顔なくせに数学はできねーから、こーして司馬とやってるわけだ。
その日は、わりと晴れ…………………………てたかな?
あー、司馬が俺の肩に寄りかかって寝てたからそうだったかも。


もーとにかくアイツ以外がすべて薄れてしまったから覚えてねー。


…っても、アイツが特別かわいかったからとか、運命の出逢いだったから、とか

そんなロマンチックなもんじゃねーんだ。




司馬と肩を貸し合ってうとうとしてたら、なんか視線を感じるから
ついうっかり(いいか、ついうっかりだ!!!)
ついうっかり

目を開けてしまったんだ!!!!!!







そこには女が一人ちょこん と正座して座っていた。
太陽を背になんだか少し興奮ぎみで、頬が高潮していた。
俺はてっきり告白かと思った。(甘かった…)
「あー…俺、誰とも付き合う気はないから」ってお決まりのセリフを言おうとした。
そしたら、この女は、世界一嬉しそうな顔で






「あなた達、ホモ?」






って聞きやがった。
























って言うのがそいつの名前。
俺と辰のクラスメイトだ。
辰によるとそいつは、いわゆる、ちょっとしたマンガオタクらしい。
毎週月曜日になるとジャンプを買ってきては読み漁ってるし、サンデーだって男子にかりて読んでいる。
隣りのクラスの男子からはマガジンも貰ってるらしい。
まあ、それならマンガズキ、止まりなのかもしれないけど
けど、いくら好きったって、キャラの誕生日までは覚えてねーだろ?フツー。
けどアイツはしっかり覚えていやがるんだ。
こないだ、クラスの友達と「今日は渋沢キャプテンの誕生日!きゃぁ〜」…とか騒いでた。
渋沢ってサッカーマンガのキャラだろ?
おいおい……兎丸より精神年齢低いんじゃねーの…。




と、まぁ、こんな程度の知識しか持ちあわせてなかったのだが。



いきなり、初対面にも近い会話が「あなた達、ホモ?」って言うのは
人として、どーかと思う。













「ねぇ、ね!!」

その、いちクラスメイトは、さっきよりも数倍嬉しそうな顔で俺に近づいてきた。
そして俺と司馬の顔を見比べて、 きゃんっ! なんて声を出して
最高に期待かかった目
見つめてきた。

普段なら、絶ッッッッッ対、「バカじゃねーの」とか「どっかいけよ」とかそう言ってたはずなんだけど、
そん時は、マジで焦ってたし、普段めったに (というか俺はこの時初めて声を聞いた) 喋らない司馬が

妙に色っぽく
「うう…ん、犬飼………も…ダメ…」とか言ったせいで!!!
俺は


「おっお前にはカンケーねー!!!!」

なんて、まるで 俺らはホモです。 と未青年の主張で屋上から一世一大の大★告★白をしたような事を言ってダッシュで逃げてしまった。
人生の最大の汚点だ。













「おはよう、犬飼君!!」

「…………………………おはよう」


悪夢だ。
この女が隣りの席だなんて。

は他の女のように弁当もってキャーキャー追いかけるわけでもないし、野球部の練習の来ても誰に声援を
送るわけでもないし、ゲタ箱に手紙を置いていくわけでもなく、ただ、じっ     と見てくるのだ。
それが、好意の視線じゃなくて、好機の視線だからやけに疲れる。
俺が辰と肩を組んだりすると 「浮気だわ!」 とでも言いたげな視線が俺を緊張させる。
ましてや司馬が来ようものなら らんらんと目を光らせて 見つめてくる。
「何か起こらないかしら」 みたいな事を思ってるに違いない。
ああ………。なんなんだ。
俺は何回も言ったんだ。
「あれはただの昼寝で、司馬とは仲のい友達なんだ」って。
そしたらは、クスクスと笑って

「常套手段だよ、そのいい訳。犬飼君…照れなくていいよ?」
















そんな訳で授業中以外は最近気を使ってる自分がいる。
司馬が使ったタオルは絶対使わないし、ジュースの回し飲みもが見ている時はしない。
おそろしい。
こんなにも一目を気にしたのは初めてで、最後に違いない。




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本日四時間目の授業 
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あー…数学だ。
コイツのせいで最近屋上で司馬に教えてもらってない。(大迷惑)
まぁ…なんとかなるだろ…

「じゃあ、今日は出席番号順ね!…一番の犬飼君」

こういう時に当たるから、人生って嫌だ。あーチクショー、適当でいいや。

「あー、sin30」
「…犬飼君、今、数Aなんだけど」
「……じゃあ2」
「じゃあっ、て何? (にっこり)」


…おい、助けろ!
と思って窓際の辰を横目で見た。
すると辰は眼鏡をクイッと上げて口パクで何か言った。(助かるぜ!! 流石知能派!)


…ファ…イ…ト…です…





あとで締める。


あークソ、どうしよう。

「犬飼君、12だよ」


チラリと横を見るとがノートを指差して ココ ココ と言っていた。
コイツ…後で色々言いがかりつけて司馬との関係を吐け! とか言ってこないかな…


「早く早く!先生に気づかれちゃうよ」

……しかたない。

「12です」
「ハイ、よろしい」


先生は黒板にキレイな字で12、と書いて公式の説明を始めた。
俺はにこっそり ありがと と言った。
でもはもうノートに何か一生懸命書き殴っていて、聞いていないみたいだった。








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昼休み
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「へぇーけっこうちゃんってイイコじゃない?」


兎丸が俊足を生かして購買部で買ってきた、十二支名物メロンパンを頬ばりながら気楽そうに言ってきた。
俺達は最近屋上から移動して中庭で昼飯を食っている。
俺と辰と司馬と兎丸。
結構以外な組合わせっぽいが、屋上の猿野、子津、猿野の友達、マネージャー達と食うのはゴメンだしな。
それにけっこう暖かくなってきているので、外は気持ちいい。
女に一通り追いかけられた後は、ここに集まることになっていた。



「よくねーよ。俺はあの後、に`司馬君ってカワイイよね`だとか`よく見ると司馬君って睫毛長いよね`とか
あまつの果てには`司馬君と何処までいってるの?`なんて聞かれた時の対処作を延々考えていたんだから」
「ははは犬飼君も、だんだんさんに似て想像力たくましくなりましたねぇ〜」
「笑うな!元はと言えば、辰がわからなかったからいけないんだ!」



俺は辰をにらみつける。
すると辰は平然を装って俺のコーヒー牛乳を手にとって、元はと言えばあなたが解らなかったのが
いけないんです、と言った。
それはそうなんだけど…というか、俺のを勝手に飲むな!
今アイツが見ていたらどうする気だ!!
なんだか心配になって、きょろきょろと辺りを見まわす。
木の間とか、そこらへんで固まっている男子の隙間とか、ベランダから覗いていないかとか、ゴミ箱に入ってないか、とか。
そんな俺をよそに、辰達は話を進める。



「それでですね、この間なんかさんは`司馬君に誕生日何あげる?まさか…自分!?きゃっ!`なんて勝手に一人萌してましたよ」
「…………………………!!!(カァーーーッ////)」
「あ、司馬君、今想像しましたね?」
「(ブンブン!!)」
「無駄ですよ〜私には解ってしまいましたからね…! ほぅら〜犬飼君のたくましい手が司馬君のブラウスを…」
「!!!!!!」



司馬は急いでブラウスの前を掻きあわせて辰から逃げる。
コラ! 俺を勝手にホモにしたてるな!!



「でもさ〜なんかおかしくない?」



兎丸は顎に手を当てて小首をかしげる。
司馬は結局俺の後ろに落ちついて、何事かと覗きこむ。



「だって、僕達のところには一回も来たことないよ?
もし犬飼君と司馬君がホモだとか〜体の関係をもった仲だとか〜そういう事を思ってるんなら
司馬君にもちょっかいかけてに来てもいいと思わない?」
「まぁ…それも一里ありますねぇ」
「で! 僕が思うにズバリちゃんは犬飼君が好き!!!!」
「はぁ? 冗談! 好きな奴に`あなたはホモでしょ?`なんて言ってこないって。フツー」



俺はあきれたように兎丸を見返す。
司馬もわからない、といった感じだ。
すると辰が大袈裟に手づつみを打って嬉々として俺の顔を見る。



「ああ。なるほど!!
普通の攻め方じゃ犬飼君、あなたお引きになるでしょう?
そこを彼女は、考えに考え抜いてそういう風変わりな作戦を立てたと言うわけですね!!
いやぁ〜なんてアグレッシブでかつストリッキーな作戦なんでしょう!!」



…そうなのか?
まぁ、言われてみれば普通の女とは違って別に、逃げたい訳じゃないし (別の意味で逃げたいけど)
話してても俺の事そんな根堀葉掘り聞いてきたりしねーで、まぁ、楽しんでた事もあるし
部活だって…まぁ…静かに見てて、なんか好感はもてるけどさ。
けど、なぁ…。
そんな事言われたら、次の授業どうしたらいいんだよ。
気になんじゃねーか…




あっ



急に兎丸が大声をあげて後ろ上方を見上げたので、何事かと後ろを仰いでみたら、噂の張本人
が3階のベランダからカメラを構えていた所だった。
シャッターがきられた時、俺は思いっきり顔を隠してしまった。
今の今まで俺の事好きだとか好きじゃないとか、そういう話してたから照れる。
は 2ショットもーらい! と叫んで、ひょっこり引っ込んだ。



「……犬飼君?」

うるさいっ。

「顔紅いですよ」


そんなの俺が一番わかってる!!





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本日5時間目の授業
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とりあえず、緊張する。
なにげなく席に座ったつもりでも、椅子がでかい音をたててガタガタいった気がする。
でもは別に気にしてないみたいで、なにやらカードをごそごそいじっていた。
と、そのうちの1枚が俺の机の下に落ちた。


「あ、犬飼君拾ってくれる?」
「……」



なんだこのカード…
護封剣?

手の止まった俺の手元をが覗きこむ。
うわっ、そんなに近づくな…!!



「ああ、コレはね〜敵のモンスター一匹の動きをを、3ターン封じこめるんだよ」
「も、モンスター?」
「犬飼君知らない?こう、俺のターンだ! っていうカードゲームマンガ」
「…知らない」
「そう?けっこー楽しいよ。犬飼君もやってみれば?うちら毎週火曜に理科室でデュエルしてるからさ」

デュ…デュエル???(汗)

「俺、部活忙しいし…」



そっけなく言うと、は、そっか。 とだけ言った。
それで先生が入ってきて号令をかけたので俺たちは互いに黙った。






・・・・・・・・・・・・・・




なんだこれは。


本日、5時間目、古典は古語テスト。
15分間の制限時間の後、隣りと交換して採点をするのだが。
のわら半紙の裏にはびっしりと数字が並んでいる。



い ぬ か い  め い  し ば あ お  い
1  3  1  2   4  2  2  1  1  5  2
 4  4  3  6  6  4  3  2  6  7
   8  7  9  2  0  7  5  8  3
     5  6  1  2  7  2  3  1
      1  7   3  9  9  5  4
        8  0  2   8  4  9
          8  2  0  2  3
            0  2  2  5
              2  4 7
               6 1



と言った具合に。
その他にも辰と俺とか、牛尾先輩と司馬とかの名前と数字が延々黒い大海となってしたためてある。
俺は恐ろしくなって、プリントの端でを突っついた。


「…なんだ、コレ」
「相性占いだよ〜。おめでとう! 部の中で司馬君と一番の相性だよ!!」
さすがカップル!!

にこにこと、それはそれは太陽のように屈託なく笑うに、俺は急に胸が痛くなった。
そして、その思いはどんどん俺の心を満たしていって、ついには眩暈がするほど、確信する。
























ああ、コイツはただのホモ好きだ。