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辰と兎丸は相変わらずは俺の事を好きだと主張する。
人の恋愛事情は首をつっこんでも怪我はしないから楽しいらしい。
おかげで、今度は冷やかされる数が増えてしまった。
とは席が隣り同士だからなにかとペアを組む事が多いしので、辰はそのたびに俺を冷やかす。
それに結構破天荒な奴なので、との出来事はわりと思いだしやすい所にしまってある。



そう、例えば。



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ある日の3・4時間目の授業・家庭科
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ぁ-----っ!!」


最高にビックリして、うさぎ型リンゴの耳を切り落とす所だった。
俺がむかついて顔をあげると、は普通のリンゴ向き係りであったはずなのにまだ皮を剥いていないらしく
赤いリンゴを手に口をパクパクさせていた。
さっさと剥け! と言う俺の声をかき消したのは同じ班の女の悲鳴だった。



ーーー!!! 血ーーーーっちっちぃーーーー!!」
「うわっ、、なにやって……おい、犬飼連れてけ!」
「お、俺!?」
「お前隣りの席だろ!」
「…それは関係な」
「犬飼ーー!!私死ぬーー!!」
「はやくーーーー!!!!」



俺はわけもわからず、半狂乱のを連れて家庭科室を出る事になった。
保健室は本館にあるので、ここ別館の家庭科室からは少し距離がある。
階段だってあるのに、この女は前を見て歩こうとしない。



「ちゃんと前みて歩け!!」
「駄目だーー!!!血が見える!!」
「ちょっとくらいだろーが! 死にはしねーよ!」



だから女は嫌いだ。
いちいちびーびーわめく。
俺は階段の途中で進まなくなったをひっぱる、が、奴はがんとして動かない。
しゃがみこんで顔をあげようとはしない。
俺はいいかげんイライラしてきて、の手を離した。



「…じゃあ、死ね。俺は一人で保健室に行く」
(今思うとむちゃくちゃな事を言っていたが、当時の俺は本気だった)
一気に階段を一階まで駆け降りて、外に出るドアに手をかける。
ああ、やっぱ女はめんどくさい。
ホモじゃねーけど、司馬といたほうがよっぽどいい。
はぁ、と溜息をつくと、それに混じって
  ドタッ   という音、続けて



「い``-ぬ``-か``ーい``……!!!」



俺は夢中で階段を駆け上った。



!!」



追いかけようとして落ちたらしい。
右の上履きがご主人の帰りを待って2番目の段でちょこんと待っていた。
うつ伏せで動かないは、いつも綺麗に束ねていた髪もぐちゃぐちゃに、スカートも汚くめくれ上がって、でも何より
手の平からの出血が階段の随所に点々と跡を残して、まるで惨劇にあった女子高生みたいだった。
その格好ではただひたすら繰り返したんだ。



「いぬかいいぬかいいぬかいぬかいいぬかいいぬかいいぬかいいぬかい」


俺の名前を。







「おい…っ大丈夫か?」


抱き起こすと、壊れた人形の様な変な復唱は辞めたかわりに、今度は死にそうな顔で泣きそうな顔になって。


「…いぬかいーー……死にたくないよー……」



必死になって辺りを見まわすと、ちょうど荷物を運ぶ時使う手押し車が目に入った。



「コレの乗れ!!!」
「う…うん」



俺がいくら野球部だっていっても、こいつを運んで階段を降りた挙句、本館まで連れていっやる力はないと思う。
悔しいけど。なんかすごく、悔しいけど。
取っ手にしっかり捉まったのを確認すると、勢いをつけて俺はそれに半ば乗りかかった状態で階段を
ものすごいスピードで下り始めた。
すっげー煩い音。震動で弾け飛ぶかと思った。
はっきり言って、ヘタなジェットコースターより怖い。
死ぬかとも思った。
でも、そんな事より一生懸命へばりついてるの方が死にそうで、それの方が全然怖かった。
階段を降り終わると、それを今度は本館に向けて全力で押し始めた。



「死なせないからな!!!」



ってヤケに本気で叫んだかも知れない。
とにかく保健室のドアをぶち破る勢いで入っていったところからは、すごいスローモーションだった。
保健室に入っていったらえらく驚かれて、( まぁ、妥当な反応だ ) それで、先生に破竹の勢いで
を押しつけて、それで俺はずっと側で消毒やら包帯を捲かれるさまを見ていた。
はと言うとずいぶん現金な奴で、包帯を捲いてもらったらすぐ元気になって

「なんか、この手ってグローブみたいじゃない?」
と笑った。








はっきり言って、
ギャグ以外のなにものでもない。

おかしな事に、
神様にまでコイツを助ける様に祈ってたんだから、とんだおいだ。










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当時の状況を語る野球部S.T君
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いやぁ〜あの会話筒抜けでしたよ(大笑)
なんてったってあんな大声で会話するんですから。
クラスの皆さんとおおいに笑わせてもらいました。
犬飼君ってば、結構ギャグなキャラもいけるんですね!
「死なせない」って言うの、傑作ですよ! グレート!!

















え?
あれギャグですよね?










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当時保健室でサボっていたA.S君
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

(通訳)


えっとぉ〜、俺は急に犬飼がすごい轟音と共に叫びながら入ってきたから、
カーテンの隙間から覗いてみると、例の女の子とよく荷物運ぶやつと犬飼が居た。
なんか喚き散らしながら先生と格闘してた。
死ぬとかなんとか言ってたのは聞こえたけど。
…え?あれって女の子の方が怪我してたの?












どっちかって言うと、犬飼のほうがにそうだったけど。









☆━━…‥‥・・―――――――――――――――――――――――


と、まぁこんな具合にと俺は友情( と呼べるものなのか? ) を深めていった。
だから最近は司馬と俺以外の会話もするようになったんだ。
野球の話とか、アイツの好きなマンガの話とか (たまにホモ萌される)、
まぁ司馬の話は相変わらずされるけど、もう馴れた。
と言うかどっちかというと、結構楽しかったりもする。
もその友達もリアクション激しいし。
そんなこんなで、席が離れても俺達はよく喋るようになった。


☆━━…‥‥・・―――――――――――――――――――――――












・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
と、そんな日が続いていたある日の火曜日の午後
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野球部の練習も終って太陽がなくなる頃、俺達は大人数で駅に続く道を歩いていた。
なんでも最近変質者が出没するらしい。
紙袋をいきなりかぶせられて路地裏に連れ込まれたりするのが手口で
猿野が犯人だと俺は睨んでいる。…が、
それが女ならまだしも、男もターゲットらしいから、違うかもしれない。とりあえずハタ迷惑だ。
それにあの監督だったらいつもどうりに帰すのだろうけど、牛尾キャプテンが1年は皆で帰りなさい、と
実によけいなことを言い出したので、駅に向うもの同士男だらけで帰っているのだった。




「まぁ〜ったく、なんでこんなむさっくるしく男だらけで帰らなきゃいけないんだよー」
「まぁ、キャプテンは僕達を心配してくれてるわけっスから」
「そんな事言ったってなぁ〜〜!! あのバンダナやろーと凪さんが一緒って言うのが気にくわん!
あ〜〜〜〜心配だぁ〜〜〜凪すわぁ〜〜ん!!!」




猿が学校の方へ向って叫んだ。
うるせぇ…。
はぁ、とこれ見よがしに溜息を吐いてやると案の定突っかかってきた。




「なんだ今の溜息は!! 」
「別にただの溜息ですがそれがなにか?」
「…(怒)てめーなんか心配する子もいねーからって焼餅焼くな!!」
「意味わかんねーよ、猿」




むっきーーー!! と俺の襲いかかる猿を子津が押さえる。
いつもの事なので、皆は特に気にせずそれぞれが互いの喋り興じている。
辰も苦笑いで飽きませんねぇ、とこぼした。
俺は何も答えず道端の雑草を蹴飛ばした。
別に、居ないわけじゃないけど。
部活帰りの人ゴミの中にを見つける。
ほら、アイツ一応女だし。
紙袋なんか被せて下さいっ、て感じなサイズだし。
前方で今日珍しく2本に結んだ髪がチマチマ揺れるのを確認する。
回りには毎週火曜のデュエルクラブの男がいるし、大丈夫だろ。
いくらオタクだからって女一人ぐらい守れよ。
いざとなったら俺が助けに行くまで持ち堪えてみせろ。










好きなんだ?



背後で兎丸がとても嬉しそうに言った。



別に好きとかそういうんじゃねーよ!!!



慌てて視線を反らして振りかえると部員全員が俺を見てた。


「…だから好きとか、そういうんじゃねーって、言ってるだろ。心配なだけだって」



俺が女の心配しちゃわりーかよ。
友達なんだから当たり前だろ。










フンフン!!!!!」


と、辰が大袈裟な咳をした、と思えば


キャ――――――――!!!!!!!


兎丸が叫んでジャンプしだし
司馬は無言できょろきょろしだした。
子津は一人おろおろして、猿野の檄でかき消されてしまいそうな、とてもとても小さい声で教えてくれた。


「…、今、兎丸君の好物の話だったんスけど……」




兎丸の台詞に? を付け咥えたのは俺の被害妄想!?
(アイツのせいで俺まで想像力がたくましくなってしまった!!! )


「あっ」


どうやら兎丸が前方で集団に埋もれるを発見したらしい。
ちゃーーーん!! と呼びかける前に司馬が口を塞いでくれたおかげで、なんとか俺のプライバシーは守られた。



「犬飼君…いつの間に好きになったのですか?………まぁそれはおいおい聞かせて貰うとして、よかったですね。
両思いですよ?」
「いや、俺は別に…」
「あはは、別に隠さなくってもいいですよ。彼女結構おもしろい子ですしね」
「だから…」



なんで人の話を聞かない!!
猿は猿で何の事だかわからないようで子津につっかかってるし、( 子津、言ったら殺す! )
司馬も兎丸も興味丸だしといった態度でを見ている。
あんまり見るな!勝手に見るな!
なんだか俺のものでもないのにイラついて二人を叱咤しようとしたら、が急にわき道をそれて
誰か男と二人で歩いていくのが視界をかすめた。
オイオイ!
なんで二人で遠周りする必要があるんだよ!!!
もしそいつが変な気もってたらどうすんだ!!!








ダッ






犬飼が逃げたぞーーーーーー!! と言うのをBGMに急いで後を追いかけた。
制服って走りずれーんだよ!
絡まる薄いズボンから漏れる風は、昼とは反対に生暖かい感触で俺を不安にさせる。
ちっちゃく揺れる二つ結びを追って、角をニ.三度曲がると公園が見えた。
街灯もロクについていない薄暗い灯りの中で、淵沿いに設置された木々の間から二人が見える。
急に男立ち止まってが
バックから紙袋を取り出して、それでそれを



手渡した。



…………というか、当たり前だ。
あんな目撃者が多いところで誘ってどーする。
しかもよく見たら、アイツ隣りのクラスのに毎週マガジンあげてる奴じゃないか。
ともかく、飛び込まなくてよかった。完全にアホ扱いされるところだった。
固く握った手をほどく。バックの取っ手がすこし汗ばんでいた。
気が抜けた俺に能天気な会話が飛びこんでくる。







※ここからは音声のみでお送りいたします。

「コレ、例のもの」
「わぁー!ありがとう!! これ創れなくって困ってたんだ〜」
「ウチの姉貴に頼まれて創った事あってさぁ。まぁ2度目だからそんなに苦労しなかったよ」
「こんなでっかい鈴よく見つけたねぇ〜わぁ!すっごいふかふかだね!耳の部分!」
「フェイクファー余ってたかから使ってみた。…というかはデジキャラット好きなの?
「好きだけど、コレは売り子頼まれたからさ」
「コス広場行くわけ?」
「行くかなぁ〜私買い物もしたいし」
「まぁどっちでもいいけど、チェンジちゃんと買えよ」
「私はちゃんと買ってます〜!!」






・・・・・・・・・・・?
公園を覗き込むとがやたらめったら大きい猫耳を頭につけて、落ちないかな〜?と言って頭をブンブン振っていた。
なんだあれは…。また俺のわからない世界関係か……………帰ろう。
立ち上がって乱れたガクランをちょっと正す。


「ありがとね。なんかお礼が出来ることあったらするけど…なにがいい?」
「ん、じゃコレ貰って」


なんか隣りのクラスの男は、もう一個カバンの底から今度は幾分カワイイ袋を取りだした。
あ、なんか最近できた駅前の雑貨屋の袋。
袋の中身は蛍の色みたいな、蛍光黄緑の球がついたゴムだった。
うわっ。派手じゃねぇ?


「ウチのねーちゃんがさぁ、買ったんだけど大学にして行くにはちょっと…って事で押しつけられれたからやるよ。
 学校にでも付けてきて」
「あ…そうなの?でも似合うかなぁ〜?」
「貸してみ」


男に手渡されたそのゴムは器用に髪を彩った。
左右に結びつけられた四つの球はが顔を動かすたび、びよびよと上下して元気なアイツにはちょっと不自由だと思った。
でも、は笑ってジャンプしながら ありがとー! 明日からさっそく付けてくからね!って明るく言った。
そんでもって、奴の手を握ってブンブンと激しく握手した。
俺は逃げた。



















なんで、好きでもない男からそんなもん貰うんだよ!
結んで貰ったりして、なんだよ!
気やすく、手とか握るな!

お前なんてもう嫌いだ………っ!












っていうか、俺はいつからを好きになったんだ?

(いつの間にか?そんなんありかよ!!)