NOT  NOT  NOT 償の
(じとじとした空気の中で読んでくれないと困ります。)







空けっぱなしの窓から、蒸し暑い空気が俺をねっとりと侵食する。


波を打って去っていくスカートを視界に収めながら、青い海に行きたい→サーフィンやってみたい→
かき氷食いたい→しかし海に行ったらさらに焼けてしまう→猿がうるさい→めんどくさい→やめた
という方程式が浮かんで消えた。


また、女に告白されてしまった。


もう名前は忘れてしまったが顔は覚えている。
えっと、マスカラのべっとりついた目があってグロスがたっぷり乗っかった唇があって小鼻が真ん中に納まっていて虹を描く眉が存在して
……とりあえず、こんな感じだ。(忘れていると素直に言えないのは良心の問題です)

小さい手を前で組み、何度か俺の顔と廊下の床を行ったり来たりするカールした睫毛は、最後はどっちつかずになってしまったのか
目線は俺の身体の真ん中にジャストミ〜ト。(オイオイどこ見てんですか)そしてウチのマネージャーの猫瑚に判定負けの勢いの小声で俺に言った。
好きです、って。









嗚呼、おまえ俺に何をもとめてんだ?
(気持ち悪い)










俺は
司馬に求めるものは何もないぞ、ないない本当だって。
アイツが部長と放課後デェトとしたって(暗がり限定、の)
兎丸と放送ギリギリポッキーゲームしたってもしくは辰と
秘密の交際中だって(どうでもいいがなんでさっきから男
ネタなんだ?俺はアイツをホモししたてあげたいのか?)い
っこうに構わない。


だって俺はみかえりを求めていないもとめてないから。「
ムショウのアイ」ってヤツですよ!









「あ、犬飼君」


1、子津、2、辰、3、牛尾
先輩
どれにしろあまり聞きたくない声であったのは変わりない。
(内訳:子津→仲良くない 辰→告白現場に遭遇されていた可能性が高い 牛尾先輩→苦手)
むしろ3の御方は強烈にお会いしたくない。勘弁してほしい。
なにしろ牛尾先輩は



「司馬君見なかったかい?」



口を開けば司馬*司馬*司馬*だからだ。
ぶっちゃけ最近の頻出度最上級単語は「野球!」と「LOVE」が最速のスピードで「司馬」に塗り替えられた。
うわ〜。こんなんでいいのか。いやよくない反語。
牛尾先輩は確かに、カッコイイかカッコ悪いかの範囲だけでで比べたら、ためらう事なく皆が顔を赤らめだろう。
しかし野球部の下馬評と今日までの生活状況を考えると、先輩はためたいもなく、やばい人の部類に入部する。

対面したまま何も答えないまま黙って突っ立っている俺に、先輩はいよいよ豪を煮やしたようだった。
でも、その前にいつも金を絶やさない髪をうっとうしそうにかきあげ、最上部までキチンととめているブラウスのボタンを
一個、二個、重い枷を取り除くように、かつ、軽快にはじく。


「知らないのか、それとも教えたくないのか、どちらなんだい?」


笑っていない笑みが俺を射る。威嚇なんですか?司馬をただ、純粋に好きになっちゃいけないんですか?
先輩から奪おうなんて一片も、そう、いっぺんも思ったことないんです。
なんてったて俺は
無償の愛の男ですから!(愛してるだけで十分なんです!)


「知らないんです、牛尾先輩」


俺は一方通行の愛は押しつけない主義なんです、牛尾
先輩

すると牛尾先輩はやけにあっさり、そうかい、と引き下がった。
アレ。本当は知ってるんですよ、俺。
教室で寝ていた分のノートを写しているんです。俺のノートを見ながら。



「時間をとらせたね、それじゃまた部活で」

「はい。それじゃあ」

「………あ、犬飼君」



振り替えらない牛尾先輩大魔王の顔は見なくても笑っていない事が、冷えた空気で伝わってきた。



「わかってるよね?」

「……何がですか」

「ははは、そうかい、部活を楽しみにしてるよ」



ひらひらと後ろ手を残して牛尾先輩は廊下の曲がり角へ身をやつした。
…いや、別に後悔はしていないし、怖くだってない。
ただ俺の心は一点、ただ一点、司馬に叫びたい事で一杯だった。






司馬!お前は即刻アイツと別れ、俺のよさに気づくべきだ!
(俺を愛してしまえ!)




また蒸し暑い気候が俺にまとわりついてきた事を感じた。
そうだ。帰ろう。
俺は司馬のいる教室へと引き帰そうとした。


















「あ、犬の兄ちゃん」


また来た…
何回瞬きしても、そこには季節外れの派手なニット帽に納まった凶悪な顔がちょこん、といた。
ペイントを顔に施したその様子は、可愛いと言う次元より、まるで戦う前の闘志を催すまじないの気がする。
(なんの戦いだって?そりゃもちろん)



「シバ君見なかった〜?」



…を争う戦いであって、けっして本業の野球などではない。



「さぁ……牛尾先輩もさっき探していたけどな」



ぶっきらぼうに言い放つと、兎丸はピョコンと耳を立てた。
そうして右手に持っているコンビニのビニ―ル袋の中身をぶちまけんばかりに振りまわしながら
明かに不服そうな顔をこちらに向ける。



「キャプテンもー!?もぅあの人いったいなにしようとしているんだか!シバ君ばっかり追いまわしてさ!
 ああ僕は心配でたまらないよ〜!」

「兎丸、袋の中身が……・!」

「あ、・・ああそうだよねっ危ない危ない」



………っえっと。
振りまわすのをやめた勢いで何個かの中身が宙を舞った。
苺ポッキー・プリンポッキー・トマトプリッツ・アーモンドポッキー・サラダプリッツ・トッポ・青トッポ
拾い集める俺の手にたまる菓子たち。
おいおい何故棒状菓子しかないのですか。それはやはりアレしかないと言う事ですか?
端から食べ合うゲーム用?



「アハ、ポッキー系っていよネ!僕大好き!」



にこっ。
と笑った顔には嬉しそうな純粋笑顔だけがあった。
ああ、やっぱり、そうなんですね?



「兎丸、お前それを何に…・・


「あーーー!そうだったそうだった!キャプテンがシバ君を探してるんだった!僕もさっさと探さなきゃ!」



じゃ、そう言うことで!
俺は半場やりきれない気持ちで廊下に置き去りにされることになった。
部内1の俊足も、こんなことに使われて (本人はえらく真面目だろうが) さぞ、もったいない事だ。
またもや牛尾
先輩と同じ方向に消えた兎丸を見送りながら、俺は安堵のため息を1つついた。
牛尾
先輩のように勝手にライバル視されては困る。
しかし兎丸は別段俺の事は気にしていないようだったし、むしろ友達として接しているような感じだったので。
それで、安堵のため息をついたのだった。

(ホラ、俺は無償の愛保持者だって言ってますしネ!)







「そうそう、犬の兄ちゃん」

「わーーーーー!!!」




全身の毛が総立った!
急いで振りかえると、後ろには兎丸がポッキー片手ににこにこと笑みを浮かべて立っている。



「と・と・兎丸!?さっき向こうに消えて…!?」

「あ〜あのね、用事を思い出したから下から回って後ろの階段から戻ってきたんだぁv」



ハイ、とおもむろに差し出されたメンズポッキーは、確かな意味を持って俺に渡された。
そう、



「それ、さっき拾い集めるのを手伝ってくれた時のお礼だから、辰の兄ちゃんと仲良く一緒のを食べてねぇ!それじゃ!」



ダー――ッ と効果音がすぎて行って、俺は今度こそ、安堵の息をついた。
そして、同時に艱難の溜息も口をついた。
一緒、  をですか?
おおおお断りです。俺はそんな趣味はありません。端から辰と食い合うなんて…。
嗚呼、司馬に手をだすな、という牽制だ。暗の牽制が俺をさいなむ。











司馬、お前は友達選択を間違っている。確実に間違っている。
なんで俺と友達になろうと思わなかったんだ?どうして兎丸とは黙っていても会話ができるんだ?

俺を選べ!どんな事があっても!





........................................................






やっと。
俺は曲がり角に怯え階段に怯えながらやっと。教室に辿りつく事ができた。
重いドアに手をかける。汗ばんだ手が少し重さを増せさせた。



「司馬」



太陽光線のスポットライトの中に司馬はいた。
さんさんと不健康に降り注ぐ太陽の中で、熱を吸収して熱くなっている机に頬を押し当て微動だにしない。
俺は静かに (と言っても学校のドアはガラガラと煩い) ドアを閉めて、手短な椅子を引き寄せて横に陣取る。



「司馬、寝てんの?」



空というよりは海の色を佇めた髪が机に色濃い影を落している。
俺のノートの半分も写してはいない。
ただ、シャーペンで書かれた読めない字が羅列をなして書き殴ってはあった。
たぶん途中で冷たい机の脚の部分で涼もうと思っていたのだろう。
その名残か、手が机を抱えるように回っていた。
あー、熱い。
見ているだけで汗が出てくる。
しかしそれは生理的ではなく、緊張の汗であることは、わかっている。





全開にしてある窓からふわりと、一瞬の冷気が舞いこんだ。





司馬に触ってみた。
震える手でサングラスを外すと、常人よりちょっとばかり長い睫毛がある事を知った。
(牛尾先輩はとっくの昔からしっていたに違いない)
それから軽く、ほんの軽く唇い触れると、少し薄い唇が俺の指を押し返した。
(兎丸はとっくの昔から知っていたに違いない)

ああ、熱い。
(どこもかしこも)


そう、そうだ、今日の蒸し暑い陽気でどこもかしこもこんなにも熱いのだ。
それこそ顔も、耳も、心も、身体も。


あーあ。






「俺のものって一つもないのな」



言葉に出すと、何故だか急に気持ち悪くなって、俺は、俺の許可なしにいやらしくも司馬の唇にくっついた髪の毛をつまんでのけた。
牛尾先輩にも兎丸にも、何でオマエは流されて突き合うんだ?なぜ?俺だってオマエの事好きなんだぜ?
ああ、これは絶対不公平だと思います。


ぬかるんできた指先が、司馬の汗に触れて余計に湿気を帯びた。
そのお返しに、汗ばんでじとじとしている唇をさらにじとじとさせようと、唇を重ねた。



















無償であいつを好きなんです。無償なんです。無償なんです。見かえりは期待していません。
でも司馬からも愛して欲しいです。でも、無償の愛なんですったら!愛なんです!


















ああ、俺って気持ち悪い。












.............................................
相互リンクに牛馬を頂いたお礼に葵霧さんに押しつけさせてもらいましたv
これからもよろしくお願いしますv