刺す刺す刺す
針の先で、柔らかい皮膚を。羽と夢もわすれずにね!
お大事にね!













はちみつダンス














「あ〜あ、寒いなァ」
「知るかよ」
「あ〜あ、なんで紅白にカントリー娘。でなかったんだろ」
「知るかよ」
「あ〜あ、なんで今俺は今暇なんだろ」
「知るかよ」
「あ〜あ、なんで俺はこんなにカッコイイんだろ」
「知るかよ」
「あ〜あ、なんで一馬の犬は俺の髪噛んでるんだろ」
「知るかよ」
「なぁ、知らないって言ったら負けのゲーム
「しません」


ちぇ、と結人はコタツの上に顎を落した。
その後ろでは今だに真田家の愛犬マメ(マメ柴・メス・好物ハチミツ)が、結人の髪の毛を味わおうと、しきりに前足を動かし背中に圧力をかけている。
そして飼主一馬は興味がある本を夢中で読む勢いで眼をめぐらせ、一心不乱にノートに数字を書き込んでゆく。

A、C、A、@、B、わかりません、@、B、わかりません、B


「お前って妙に凝んだなぁ」

足をエイヤッと伸ばすと一馬の足先が触れた。
自分よりもほんの数cm大きい足。そのままだんだん指を下げていって踵に到達すると、あまりの感触に2度3度撫でつける。

「答えなんか全部写せよ。わかりません、なんて行儀良く書く必要ないだろ」
「全部当たってたら写したってばればれだろ!ただでさえ理科苦手なんだから」

ちょっと黙っててくれよ、と一瞬の目線を投げかけ、そしてまた自動筆記が始まる。
結人は2、3分黙っていることにした。(ちょっと、だろ?)
手持ちぶたさに辺りを見まわすと、今風呂場にいるだろう英士の荷物が目にはいった。
さしあたって普通の黒いバック。ナイロン製の通学バック。今日は柔らかい厚みで膨れている。
前に結人が無理矢理ぶっさしたスマイル缶バッチははずされていて、ぴったり2個ほど小さい穴が開いていた。
閉じてあったチャックを開ける。
数学・理科二分野・英語、結人が一度も家に招待したことのないものと一緒に、甘い香りも零れてきた。
かぎたくもない臭いだ。
女。女の臭い。
甘ったらしい香水をあふれんばかりに満たしたカップケーキ。
結人は誠意よりはすくなからず悪意を持ってそれを手にとった。
純情なカップケーキはすぐに恥ずかしそうに形を歪め、手の中で音もなくぐにゃりとつぶれた。

「やべ」

反射的にカバンにそれを押し戻す。

たぶん、英士は運んでいる途中で潰れたのだろうと思ってくれるだろう。
っていうかどうせ俺達が食うんだから大丈夫だろ。
それが、キムチ配合カップケーキだとかいうおぞましいシロモノや
この前英士が言ってた
クラスの美少女でなければ。
そう思うとまた気になって(いや、ね?キムチはいってるかもしれないし!)
もう一度カバンを開けてみた。
そこにはまだ沢山のカップケーキ。

「小さすぎ大きすぎ不味そう不細工出来そこない暴発ぎみ」


俺の方が上手い。(つくった事はねーよ?)








英士は
愛想がよさすぎだ。
今の女の人は可愛かっただのでも足は太かっただの髪型はイマイチで
やっぱり総合的にはダメだとかすぐ言うくせに、実際その人が声をかけてくると
とたんに少しはにかみを浮かべとまどいの色もいれながら笑顔で「なんでしょう?」なんて右斜めにほんのちょっっと
小首をかしげてサラサラ髪をすこし頬にかぶせ、かわいらしい美少年を演出する。
(クール編は省略←俺が気持ち悪いから)
一馬とヤメロって何度も言ったけど、
結人、いいかい、人と人の繋がりというのは古来からそう言うなれば奈良時代いや
さかのぼれば白亜紀ころから続くすばら(以下飛ばし)
ようはいつもまぎらわされる。
英士は腹黒い。
ゆえに愛想がいい。



気が付くと被害者がまた出ていた。
かわいらしい花柄のカード付きで郭くんへ愛をこめて、なんて銘打ってあるやつだ。
うわっきしょっ!!
これを英士はありがとう。なんてまたスマイルで受け取ったんだろうか。
赤いリボンがまたオキマリのハート色なの!なんて考えてないんだろうなこの女は。


もう別にどうでもいいや、と踏ん切りをつけようとして、
また無造作にカップケーキをほうりいれようとして、結人は、はたと手をとめた。
どれもこれも別の手で造られたものなのに、リボンだけキチンと右へ習えをしたように
そろって赤なのだ。申し合わせたように赤なのだ。




ここで結人は振り向いた。


「それ、マーク式なんだから`わかりません`って意味ねーよな」


「だぁーーーーーー!!!!!!!」


ばたっ


結人はあお向けになった一馬とおそろいになりながら、しししと声をあげた。
「あーーーー答えばっか見てたから気ずかなかったーー!!!っていうかさっさと教えろよ!」
「だぁって〜ん一馬君が黙ってろって言ったじゃないの〜ん」
「てめー遊んでるな!しかもその喋り方はなんだ!」
「だっきちゃん」
「古ッ」



・・・・・・・・・・・。



断わりもなしの沈黙。
カラカラとシャープペンシルがこたつの上を滑り落ちる間、一馬は始終頭をかいていた。
結人も天井を見上げてはいたがシミを数えることだけはしなかった。
かわりに秒針がきっかり12の位置に来るのを待っていた。









「「あのさ」」

ポトリとシャープペンがカーペットに落ちたことを結人は認め、
秒針が12を指したことを一馬は気がつきもしなかった。
間を置かず一馬は無言で顎をしゃくった。



「…あのさ、女子の間で赤いリボンってはやってんの?」
「え〜…そうなの?なんで?」
「なんでも」
「………えっと、たぶんアレだ。
ウチのクラスの女子がなんか騒いでたな、なんだっけ、えーーっと、
ドクリンのミニコーナーで」
「ドクリン?」
「Dr.リンにおまかせ」
「ああ、アレ」
「…で、意中の男の子に贈り物をする時は赤い色のリボンをつかうといいよ、って
言ってたからだったような気がする」
「へぇー。



       …なんで?赤?」


「知らねー!…風水的?」

さもどうでも言い事のように一馬が言ったので
結人は少しムカツイた。(なんて自分主義な俺!)

「ちゃんと考えろ!」

手短につかんだものは英士のバックだった。

「イテっ!」

「カタカナで喋るな!」

次に掴んだのはカップケーキだった。

「もうなんだよ!」

今日は結人おかしいよ。
と言って食べかけだったミカンを投げてやろうとしたら、さっき投げつけられたカップケーキにかわいい赤のリボンがかかっている
のを目撃して、言葉わ置いてミカンだけがすっぽぬけて飛んでいった。

ミカンはちょうど結人の目の前に落下してベじょ、と床に引っ付いた。









「あんな、結人」



また訪れた沈黙を使いたかった一馬は、急いで喋った。
心配しなくても結人は目を閉じて黙っていた。

「英士は愛想いいけど女は好きじゃないよ」

「…なんだそれ」

「嫌いなものこそ味方につけたほうがいい、って前言ってた。
だから別に女が好きな訳じゃないよ。
そんなに目くじらたてなくても良いと思うよ。
英士はなんだかんだ言ってもただいまっって、結人のところに帰って来るよ。
そんでね、  ね、
あんま夢中になるのもどうかと思   う      な。
結人は英士に目がないけど、  ね?
なさすぎるのもどう     か  と 思  う」



特に一馬は二人の事について自分から口だししようとは微塵も思わなかった。
疎外感を感じていわけでもないし、ハズかしかったわけでもないし、ホモっぷりについていけなかったわけでもn(←本人が
それについては自信がないので中途半端)。
なんか、別世界だったから。(え、コレって疎外感!?)
でもあんまりに結人が英士のことを心配するから、なんとなく可哀相になった。
いつもどっかにいっちゃう結人が、無意味にぺこぺこする隣の貧乏サラリーマンよりも足が折れたアリよりも落ちたヒナ鳥よりも
どこにも行けなくなっちゃってて、可哀相だった。















「運命の赤い糸
…って目に繋がってると思う。」


人の話を聞け。


「そんでな、運命の人に会うと目の糸が巻き取られて自分の目が落ちちゃうんだ。
べじょ、って」

とそこで一旦息を吸った合間に、結人の目の前(まだ結人は目を瞑ってる)に落ちたミカンの一粒が
微妙に潰れて汁が出ているのに気が付いてなんか少し気持ち悪くなった。


「だから落ちた目はな、糸の先しかみえねーし、本人の目もないの
だから、目がない」
(だから俺は今、目を瞑っていて英士しか見えないんだよ
これは不可抗力だ!
運命と言う名の暴走なのだ!)






「ごめん、よくわからない」

「俺もわかんねーよ」

「でも少しならわかったかも」

「どこらへん?」

「ゆ


「ちょっと!!!」


ふすまが壊れるぐらいに開いた。
諸悪の根源もいきりたっていた。

「どういうつもりなの!?な、なな な なんで一馬のベッドの下からエ・エ  エロ本が!?
一馬はもももしかしてもう使ったの!?なんてこと!!最近台所の戸棚のティッシュの減りがはやいと
思っていたけど、まままさかこんな事になるなんて!!!」

「えーし、風呂に入ってたんじゃなかったの!?(なんで俺の家の戸棚事情しってんの!?)」

「あわっわわわわあわわどうしよう!!!!どうしよう結人!!!!!」

「うるさいなー一馬!ミカンで目つぶししてしまえ!!」

少しふりかえった俺にまだ目を瞑っている結人がいた。
でも、なんか、ワントーン明るくなった気がする結人の声に勝手に安心した。
そしてちょっとぴくぴくしてる薄い瞼に、落ちたミカンの汁が目飛んだのかも知れない、とそういう解釈をつけておいた。










そしてその後ろで犬がカップケーキをむしゃむしゃと食っていた。
















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結人は泣いていたのです。
そして題名とアイコンと内容がまったく関係ない。
2000.3.5