「丸井。」








真田が放課後の2人きりの部室で、急に怖い顔をして俺を呼び止めた。






「……な・なんだよ」

(告白だったらどうしよう)




じり





「お前に…」




「…俺に…?」



じり




「確かめたいことがあってな・・・」



じり



俺を壁際に追いつめるように真田はにじりよってきて、
俺はとうとうドアに背中をつけつことになった。
真田の息が近い。 帽子の影が俺に落ちる。 上からすごい威圧感が俺をおしつぶして、それで俺は動けなくなってしまった。

(いよいよ俺の初キッスもおしまいかも……)


そう、密かに覚悟をしたときに、おもむろに真田は


こう言った。





















「てふぁにーとは何処にあるのだ?」




















を。














てふぁにー・・・・



「真田、もっかい言って?」


「てふぁにー」


「……………ティファニー?」


「そうだ。てふぁにー。」


「……ティファニーな」



俺はとりあえず真田から離れた。
あーよっかった、俺のファートキスは幸村と決めているんだからな。



「それでだな、丸井、そのてふぁにーとやらは何処にあるか知っているか?」

「あーそうだな」



俺は胸ポケから新しいガムを取りだして口にほおりこむ。



「ティファニーの本店が銀座にあったけど…あと、横浜の三越にはいってたぜ」

「銀座………歌舞伎町か……」

「いやそれは新宿だから」

「ママがいるところだろう?」

「真田がいうとキモイ……」

「なぜだ?」

「なんでも!」



「だいたいさー!」



これ以上ぐだぐだしていると夕飯に間に合いそうもないので、俺は部室のドアを開けて
外に飛出した。(なんてったって今日の夕飯はとんかつなんだもんなー!)
真田も後に続いて部室から出て、鍵を閉めてご丁寧にも二回確認した後(盗られるものなんてねーって!)またも几帳面に内ポケにしっかりとしまいこんだ。

俺はそんな真田を待ってあげた。ブン太くんは優しいのだ。



「何でいきなりそんなこと聞くわけ?」



校門を出て、夕暮れの自分の影を踏みながら俺は聞いた。

真田が。 
ティファニー。
TIFFANY。
言わずと知れた有名ブランド。

親気分で「どこでそんな単語を覚えてきたの!」 とひっぱたきたくなるような心境だ。



「何故とは何故だ?」



真田が不可解な顔で俺をっじっと見つめた。

いや。

なぜって。



ティファニーですよ? (わかってる?)



「だってティファニーといえば愛の幸せを運んでくれそうな、夢いっぱいのブルーボックスに、きゅっと結ばれた愛らしい白のリボン。ティファニーは女性にとって永遠の夢であり、憧れの象徴ブランド!いつまでもティファニーが似合う、可憐で清楚な女性でいたいですね的ブランドだぜぇ?」



よく女子が騒いでるアレな。
(俺にはあんな無駄に高いの何がいいかわからないけど)



「………可憐で清楚」

「そうそう、可憐で清楚。いかにも女が好きそうな単語だよなぁ〜」

「………可憐で清楚………」



「可愛いブルーボックスv」 ったってただの水色の箱じゃねーか、とか思うんだけどなー。
俺は足先の小石を蹴り上げた。
カンカン、と先を走って小石は俺をまつ。

真田と帰るのなんてめったにないことなので、なんとなく変な感じがする。



「そうおもわねぇ?」

「うむ、たまらん」

「………は?」



真田は俺には見えないような遠くを見つめて、(いや、身長の問題じゃないからね)
それから、突然妙に熱っぽい眼で俺をみた。( ド キ っ     な訳がない)



「丸井。そのてふぁにーとやらは」

「いやだからティファニーね。」

「……てふぁにーとやらは、三越にあるのだな」

「だからそーいってんじゃん」

「……うむ」



三越はわかるんだなー、でもOIOIは「オイオイ」って読むんだろうなー、
でもその前に真田ってローマ字読めんのかなーとか変なことを考えながら。

俺は眼の前の赤信号に向かって石を蹴り飛ばした。



「………てぃふぁにー………三越………」



相変わらず真田はブツブツ言っている。



……


……………


……………………









「ちょっと!信号赤だけど!!!」






ビクッ と立ち止まった真田のテクノカットを、クロネコヤマトがゆらしていった。















********************************











「怪しいっスね」

「あやしいだろ」





翌日。

さっそくその楽しい話を赤也にもらして、何故か木曜の午後練をはやめに切り上げた真田の後を
俺と赤也はつけていた。



「真田副部長がティファニーなんて南蛮語を知っている訳がないですよねぇ」

「ペリーでも家に来たとしか思えないな」

「副部長なら裏拳で追出しそうですけどね」



こう、パーーンと!
と、赤也は大ぶりに真似をしたので、俺は慌ててしーーっとワカメ頭を押さえつけた。
そして急いで近くの柱の影にかくれつつ、真田の様子を伺う。



「……………」



真田は特に気づきもせず、ただもくもくと道を歩いていた。
……まぁ、誰だってつけられているとは思いもしないしだろうしな。
ホッ と人息つくと、すいませんねぇ とまったく悪びれてない態度で赤也が言った。



「…ったく、気づかれたらどーすんだよー」

「いやー…でも、ぜんっぜん、気づく素振りありませんよ」



真田はどうやら地図を片手(※しかも手描き/じぃちゃんの手描きだろうか…。)に一心不乱に
道路を歩いている。
上をみたり下をみたり立ち止まって看板を見たり、ハタから見ているとなんだかいつもの真田
ではないみたいでおもしろい。

完 全 に 上京者。 をハタから見ている感じだ!

うろうろそわそわしている真田を見ながら、俺達は笑いを堪えるのに必死だった。



「それにしても…ティファニーってやっぱ………なぁ、切原くん?(にっしっし)」

「……プレゼント、ですよねぇ〜丸井さん?(ニヤリ)」



互いの視線でにんまりわらって俺たちは動きだした真田の後をまた追跡しはじめる。


真田がプレゼント。


これはどこをどうみても、真田の帽子の裏をひっくりかえしても地球の皮をはがしても柳生のメガネを割っても出てくる答えははただ1つ。




明日の幸村の誕生日プレゼント。




(だってアイツホモだもん!)





「あーーいやだいやだ、ティファニーだってよ奥さん」

「氷帝じゃあるまいし、中学生の買うものか!?って感じですよね」

「だいたいなー…中学生が指輪もらって嬉しがるか?幸村は借りにも男だぞ??」

「好きな人=指輪って考え方が古風なんですよね。テクノカット。」

「とんだ勘違いヤローだな・・・」



さんざんないわれようにもくしゃみ1つせず、黙々と真田は道を進みーーー
ついに三越にたどりついた。
俺達はデパートに入ろうとする真田を見失わないように距離を縮めながら、でもって気づかれないように慎重に慎重にちかずいた。



・・・・と。



「やばい」



真田が突然三越の前で立ち止まった。



「隠れろ赤也!!」



人通りが少なくはないが、多くもない通りだ。
俺は慌ててカバンをひっつかんで隣の建物の隣の影に飛びこんだ。

気づかれたかもしれない。

ヤバイ。


(いろんな意味で)




ドッ ドッ ドッ ドッ



「………」



少し、緊張した。

10秒間を置いて、慎重に2人で影から真田を伺った。








「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ブン先輩」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・何、してるんですかね」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・礼」





真田は三越の前で、たっぷり30秒、礼をしていた。















「「三越さんの家じゃねぇっての!!!」」



(やっぱり真田は三越知らなかった!!!)

















********************************










なんてことはない困難(?)を乗り越え、やっとの事で俺達はティファニーまでたどりついた。



「ホントにきちゃいましたねー」

「真田は本気だからな・・・・」



真田が選んでいる中、俺達は外で様子見をしていた。
真田は何やらものめずらしそうにショケースを覗きこみ、それから女の店員に声をかけられ、
何点かケースから取り出してもらっていた。

真田とティファニー。

マジで似合わない。



「せんぱーい、真田副部長何買うと思いますー?」



外からチラチラと覗きこんでいる赤也が あれ、指輪?とかネックレス?とかしきりに呟く。
俺も側の壁によりかかりながら自然な程度に店内を覗いた。
落ちついた深みのある赤で統一された店内で、カップルに混じり一人黙々と何かを選んでいる。

(店員もアレが中学生だとは思ってないんだろうなァ・・・・・ぷぷ)



真田が店員に並べてもらったアクセをみようと思ったらが、遠くてよく見えない。

真田は何買うんだろうなぁ・・・・



「なんとなく、ネックレスが見えた気がするスけど」

「んじゃーティファニーったらオープンハートだろ〜定番的に」

「いやートリプルハートって手もあるんじゃないスかぁ〜?」

「あーアレか・・・・でもアレ、ウザくね?」

「そうっスか?」

「俺だったらクロスフィックスじゃけどな」



突然。
俺の頭に手をおいて、店内をそれとなく覗きこみながら仁王が「う〜ん」と顎をかいた。



「………それ、仁王の趣味だろ」

「てゆうか、先輩何時の間に!」

「いやーお前等が真田の尾行なんて楽しそうなことしてるから、俺もお前等を尾行しようかと」



ニコッ と仁王はいつもの余裕ある笑みで笑って、それから楽しそうに店内を再度覗いた。



「それにしてもなーまさか本気にするとはのぉ・・・・」

「えっ、お前が吹き込んだの?」

「おもろいじゃろ?てふぁにー=v



ぶっ。



俺と赤也が吹き出すとククク、と仁王も声をたてないように忍び笑いをした。



「あ、先輩は真田副部長が何買うと思います?ネックレスですかね?」

「いや、指輪かもしれんじゃろー」

「あーそれだったら俺はナローリングとか欲しいッスねー」



次々に飛出すセリフに俺は眼がまわった。
(っていうか、すでにトリプル〜のあたりまでしかわからないんだけど!)



「詳しいなお前ら…」

「あ〜俺は姉貴がいちいちカタログみせてくるんで覚えちまいました!
今度彼氏に買ってもらうんだけど、どっちがいい〜? とか、最近よく聞かれるんですよ。」



そういや、2人とも姉貴いるんだっけか。
なんとなく納得。



「でも、それ幸村には似合わないじゃろ〜、もっとこう、細身の……と、真田がでてきた!」



バッ と俺達は急いで入口から離れた。
真田は妙〜〜〜に緊張した面持ちで、手にはしっかりブルーのショップバックをぶら下げて
でてきた。
そしてそのまま、緊張カチンコチンで歩いて行く。



「何買ったんですかね!?」



赤也が気になる様子でそわそわと真田を見送る。
くそー話ていたから見わすれた!



「くっそ〜〜〜〜一番気になるところを・・・!」

「みはぐった・・・・!!!」





「エルサ・ペレッティ プラチナワンダイヤバンドリング」







仁王が「アホか」という顔をしていた。




















「定価:97,000」









「「さすが非中学生!!!!」」

















********************************






俺達はその後、急いでまた真田をつけて、地元まで戻ってきた。

まさかとは思うが・・・・・夜の0時になった瞬間に家の窓に小石を投げて開けさせ



「幸村・・・・・・・誕生日おめでとう・・・・」

「真田・・・!何もこんな時間じゃなくてもよかったのに・・・」

「いや、俺が一番に伝えたかった。すまぬな。」

「ううん・・・・真田、ありがとう・・・・」




・・・・・・・とかいうメロドラマかます気ではないだろうか。






「・・・あれ、真田副部長、家とは反対方向にいっちゃった・・・」







かます気だ!!!








「うーーん、これはもしかしなくてもお泊り俺の手で朝を迎えろ<Rースかのぅ?」


「「それだけは絶対阻止」」












********************************









と、言う訳で・・・・



「ゆき〜、俺なープレゼントちゃ〜〜んと買ってきたからね〜!」

「俺ももってきたッスよ幸村部長!」

「俺はキモチ程度だけど」

「ふふ、そんな気にしなくてもいいのに…」

「……………」




俺達三人は幸村の家にお泊りセット持参であがりこんだ。

ははははは!

真田に幸村を一人占めさせてたまるかっての〜!



一人何時もより3割増で眉間にシワがよって口数も少なくて、もしかしなくても怒っているような
真田とは目線をあわせないように、俺達は幸村の家で0時を待って、お祝いのケーキとジュースをあけて、夜遅くまでお祝いをした。
俺は幸村におそろいのリストバント、赤也は前から幸村が欲しがってたCD、仁王はシンプルでカッコイイストラップをあげた。
幸村は俺の頭を撫でながら「ありがとう」って笑ってくれて、学校がはじまったらおそろいのリスバンで登校しようね、って言ってくれた。 (幸村愛してるゼ-★)


真田は、機会を失ったのか何故か指輪は渡さなかった。
幸村も、それについては何も追及せず、真田の「誕生日、おめでとう」というセリフに「ありがとう」と何倍も素敵な笑顔で笑っていた。




ちょっと悔しかった。









********************************



朝。


すっげぇいい香りで眼が覚めた。

幸村・・・・・・かと思ったら、幸村はちゃんと俺の隣りで寝ている。



「…………」



仁王も。赤也も。



「・・・・・・真田ァ?」



にわかに信じられない感じだが、俺はそっと部屋を抜けだし台所まで忍び足で覗きに行った。
台所では真田がハンバークをつくっていた。



「真田って、料理できるんだ・・・」



そんなイメージないけど。
俺もおきちまったし、朝食作り手伝うかなァ・・・・と、真田に声をかけようとした時だった。


おもむろに。




おもむろに真田がポケットから指輪を取り出した。





















まさか。

























それを慎重〜〜〜〜〜〜〜〜に一個のハンバークの真ん中を割って・・・・





















まさか。



























・・・・・・・・・・・・・・・・・入れた。



そして、その指輪入りハンバーグを丁寧に焼き始めた。



























まさか「優雅に朝食していたら・・・アラッ何このナイフに当たるこの硬派な感触・・・・エッ指輪?
・・・真田・・・!愛してる!!」

























っていう筋書き!?!?!?





俺は何も見ていないフリをしてひっそり帰った。















********************************







「真田が朝食をつくってるなんて・・・・」





幸村が感動気味にテーブルにつきながらいただきます、とハンバーグに手をつけた。



俺はハッキリいって気が気じゃない。




幸村が、指輪を見つけて・・・あの、メロドラマを展開されたら俺達いったいどうしよう、いったいどこらへんの穴に入ってこのこっぱずかしさを切りぬければいいのか、て、いうか、キモイ、真田はやっぱキモイ・・・!



「ブン太? …食べないの?」

「え?、あ、う・うん、食べるよ!」



仁王と赤也は何も知らずに黙々とハンバーグをほおばっている。
あまつさえ



「真田副部長ってけっこう料理うまいんスねー」



なんて、のん気な事言ってやがる・・・・

おいおいおいおいおい覚悟しろよ、これから悪夢がはじまるんだぜ〜〜〜・……!



「ブン太具合悪そうじゃのう?大丈夫か?」

「えっ」



不審な顔で覗きこまれて、俺は慌てた。
真田も俺の顔を覗きこんでいる。



「いやぁ〜・・・昨日のケーキがたまっちゃってさ・・・」

「・・・・そうなの?あんまり無理はしないで食べれるだけ食べなよ?」

「う・うん・・・」



そういいながらも幸村に口にはこばれるハンバーグ・・・・


ああああもうすぐ、もうすぐ、指輪が発掘されるんだよ、ゆきのケーキから・・!
ほら、きた、真ん中だ!!
指輪をしこんだまんなかだ!!

ああ・・・


幸村が 「ちょっと顔色悪くない・・?」 とか言いながらハンバーグを・・・・




ハ・・・・・

























アレ?





















幸村は至極平然にハンバーグを食べた。

飲んだ。

そしてまたひと切れ。

またひと切れ。


















・・・・・・・・・・・・アレレレ?












「ふー、ごちそうさま! 真田のハンバーグおいしかったよ、ありがとう」



ニコッ



「・・・・・あ、ああ、それは・・・よかった・・・・・・」
























もしかして・・・・・・