俺の名前はジャッカル桑原。
霊剣を操って暗黒武術会で闘った桑原和真の子孫ではない。
桑原さんとブラジル人のハーフだ。










「ジャッカルそれとって」

「ん」



ブン太(俺のダブルスのパートナーであり、俺の )に部室の壁に立てかけてあったテニスバックを
手渡すと、すでに2歩先を歩くブン太の影を、一人密かに踏みながら後をついていった。
今週の鍵当番の俺達は、皆が出て行った後日誌を書いて(主に俺が)、部室の掃除をして(主に俺が)
全ての鍵を締めて、(主に俺が)それから、テニスコートの鍵を掛けて(そこだけは俺、なんにもしてないとか思われたら嫌じゃん?≠ニか言ってブン太がやる。)鍵を持って帰り(主に俺が)、次の日の朝一番に持ってくるのが(主に俺が)仕事だ。



とりあえず、俺は文句を言ったってしょうがないというか、なんていうかブン太が(危険な方向で)好きだからというか、ブン太の気のすむようにしてやりたいとか、なんていうか便利男にされているような、
というかむしろ人間として扱われていないような?もしかしなくても犬扱いされているような?されている?
…そんな感じで当番の仕事は俺が全部やっている。
でも、先に帰られないだけマシなような(だって真田達と一緒に帰ったら俺がサボってるのバレるじゃんとか、
言っていたような気もする)、まぁそんな日が3日ほど続いた日の、夕焼けがとっても汚い日のことでした。



たたた、と小走りに走ったブン太が部室のドアを擦りぬけて、俺の眼前で--------



「おーし、誰もいないなー?」



眼前でドアを閉めた。



「うわーっ!ブン太っ!!」



おいおいおいおいおいこれはヤバイぞ完全にヤバいぞ!!
ブン太は何にでも本気だから、結構ヤバイぞ!
俺はかけよってドアをぶち叩いた。



「開けろーーっ開けてくれーーっ今日の夕飯はかにたまなんだ!許してくれ!」

「どうしよっかな〜」

「母ちゃんが、俺の稼ぎを家で待ってるんだ!」

「そんならなおさら帰すわけにはいかないな〜」

「お…お願いします……・!
俺には家族というものがあって家では猫のみうみうが俺の帰りを待ちに待っていて、それからインコのパチ美とか亀のヒッキーとか、俺のエサの時間を待っていて・・・       」



いつのまにか、ドアの外は静かになっていた。



「うわーーーっマジで!?お・おい、ブン太!!??」
























ガラ。



「なーんつって」



全体重をかけたドアから光が漏れたのは、ブン太が片手におしるこジュースを片手に
戻ってきた5分後のことだった。



「あ〜…今日もホント出られないかと思った……」



俺は先週のシャワールームに閉じ込められ事件を思い出して髪が抜ける思いがした。
ブン太が俺のブリーフとズボンををかっさらい、そのまま幸村のところに直行してしまったので、
しかたなく仁王にブン太からブリーフとズボンを取り返してもらったのだ。



「なんてーか、ジャッカルは大袈裟だな」

「いやいや。そうでもないぞ」

「一日ぐらいでられなくっても、死なないし!」

「そういう問題じゃないと思うんだけど・・」



ブン太は目の前でテニスバッグをぶんぶん振りまわしてから、うはは、と汚い夕暮れに向かって
綺麗に笑った。 (うわぁ、おれ、ほんとにホモみたいだ)
俺はブン太から鍵を預かって(と、いうか、主に押しつけられて)、制服のうちポケットにしまいこんだ。
それから、この心臓が高鳴る感じとか、そういうのも気付かれないように、(っていっても、もう知られているというかそれを逆手にとられているというか、)せめて、この体の音が聞こえないように体の中にしまいこんだ。
ブン太は気付いているのかいないのかそのまま、俺の2歩先を歩いている。



「俺はこのまま幸村の病院に行くんだけど、お前どうする?」

「俺? うーーーん。」



チャリを転がしながら俺は考えた。
隣町のスーパーの卵がすっごい安かった気がする。なんかお一人さま1点だったんだけど。
俺は夕陽が半熟卵の黄身の色をしている気がしてきて、俺を呼んでいる気がしてきた。



「俺は……用事があるから先に帰えろっかなぁ」



たぶん太陽をつついたら、黄身がたれてくる。とか、思う。



「えーーッッ!じゃあ俺は病院までバス?そんなん嫌だー。ジャッカル、病院まで送れ。」



ブン太は頬の代わりにピンクのガムをぷくーーっと膨らませた。
っていうか、そんなん顔したって卵が安い隣町のスーパーと病院は反対方向だって。
無理だって。そんな俺のチャリのトンボに足かけても無駄だって。そんな俺の肩に手を回しても無理だって。
そんな



「ジャッカル、お願い」





俺のベッカム号(愛チャリ)は火を吹いた。(ファイヤーー!)














(本当、俺はブン太が好きで、自分でもホモとかキモイとか思っているけど、でも俺はあくまで
男が好きじゃなくって丸井ブン太が好きなんだ! とか、よくB5サイズのやたら薄い本で使われる
常套手段を言い訳に使ってみたり、でもそんな言い訳とか、全然どうだっていいんだ、だって、誰に言い訳したって、誰に否定されたって、誰に君にキモチ悪がられても、俺が君・黄身を好きな事には、なんらかわりないのだから。)














金井総合病院の入口付近のロータリーで、俺のチャリから飛び降りた卵の黄身は、大きな延びを一つして、俺に向きなおった。



「んじゃ、また明日!」

「おう」



またあした。

俺がそう言う前にブン太は走り出していた。
荷物が沢山はいっていてふくらみ、今にも下にひきずりそうなテニスバックを抱えて。
一目散に。

前だけを見ているブン太には、俺との明日はいらないみたいだった。


俺は幸村が入院している、病室の最上階を見上げる。

たぶん、先に言った真田達があすこで談笑しているのだろう。
今日あったこととか、授業のこととか、関東大会の話とか。


願わくば。


俺は目をつぶった。



「真田と幸村が、アイツの前で傷つくような行動をおこしませんように」 (例えば、両思いっぷりを発揮したりとか)























ブーーーーーーーーーー。




「ちょっと、そこの外人さん!そんなところでとまられると邪魔なんだよ!」











☆━━…‥‥・・――――――














俺が無事スーパーで卵を買い、家路を急いでいる途中だった。


道路の端っこに、ちいさなノートが落っこちていた。
もったいない。
俺は自転車をとめた。
この税金も保険もバカ高い日本でくらしていくには、日々節約をしていくのが最も有効な
老後のための貯蓄だろうと思う。たとえノートといえど見逃すわけはいかない。
…ということで、俺はさっそくいそいそと自転車を止めて辺りを確認しつつ、その小さなノートを回収した。
上をリングでとめてある、青を基調とした手のひらサイズの小さなノートだった。
まぁ、日記帳ぐらいには使えるかな。
俺はそう思って、ポケットに丁寧にしまいこんで、再度チャリを発進させた。






















ジャッカル・
クワハラーと
魔法の日記
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 その日の夜、一段落すると、俺はさっそくそのノートに日記をつけてみることにしました。