「なぁ、幸村。」




「俺の手術は成功しないかもしれない」、と俺に告げ、それから
真田には絶対に言わないでくれ、と1回だけ、それでも俺にとっては
何百回も説いて聞かされたような祈りをまた病室から
の手土産に持たされた。
重い、と正直思った。
あまりに重いので捨ててしまいたいと目線だけで「何故?」と聞いた俺に幸村は笑う。

「心配、かけたくないから。」と、

幸村は俺の前だけでは本当によく喋る。
真実も。
嘘も。



ただそれが俺に余計な重さを乗っけているだけのことは知っていた。
愛する人を腕に抱える心地よい重さではない。
たとえるなら、そうだな、久々に発掘したズボンがボタンが閉まらないどころか、チャックさえ途中でギブアップする重さだ。しかも苦しいときたもんだ。



真田だけには何も伝えない。
幸村はそう決めていた。
たとえ死ぬことになったも、手術を眼前してもそのことは伝えない。
部を任せる以外にに何の心配を施そうか。
彼は一つのことしか集中できない人間だから。
俺のことで杞憂はさせたくないよ、と、何か悟りきったような、いっそのこと息もできないような口付けをして殺してやろうかと思うような幸せそうな顔を俺にむける。


果して、本当にそれは愛なのだろうか。
丸井に言わせれば、秘密なんかあっちゃ駄目なの!全部全部話さなきゃ駄目なの!と、幼稚な高等恋愛術論をふっかけられるのだろう。
全てを話さなきゃならない他人なんてまっぴらだ。
でも、幸村にはそんな無理を通す人間がいなきゃ駄目だ、と、思う。
つ と見やった幸村は花のようだった。
野に咲く花ではない。
籠に入ってショーケースに並べたれている美しさ。
ガラス越しにしか幸村は映らない。
金を出して無理矢理買うしか、幸村は何も話してはくれないのだ。

そこを踏まえると、真田は最悪だった。

幸村の言うが侭だ。

尽くすことが愛だとか恋だとか、遠いようなことを思っているのかもしれない。
愛とか恋とか、本当にくだらない。
俺達は、ただ、幸村が好きなのだ。
愛とか恋とか、本当に訳の解らない言葉で片付けてしまわれたくはないのだ。

そうだ俺は幸村が好きなのだ。

(それこそ、高等恋愛術論を信じている程に)






「なぁ、幸村」



靴のかかとをふんづけたままドアに手をかけると、もうそろそろ夏になるとは言え、冷えるような風がカーテンを負い越して俺に食いついた。
幸村は静かにこちらを向く。

わからない。幸村。

幼稚な俺には、お前の心はわからない。







「偽る事が、愛なのか?」







幸村は、おどろかなかった。
ぴくりともせず、むしろそれが当たり前の質問の様に笑った。
ゆるゆると巣の糸を揺らす蜘蛛のように。
巣にかかっている蝶のあきらめの様に。
もがくような、狙うような、それは幸村のつかみどころのない一端だ。







「わからない」



そうして、花びらが1枚落ちるような顔で笑った。



「でも、真田には心配をかけたくないんだ」










「仁王」




何もこんなときに、泣きそうな顔をしなくてもいいのに。

仁王は自分でもわかってはいないだろうに、思惑とは別の方向で眉根を寄せていた。
彼の髪が病院と壁とかさなって、まるでそれからできてたような、それとももしかしたらもともと仁王なんて存在しているわけがないような、感覚だった。

わからない。
真田を騙して、秘密にして、それが果して慈愛に繋がるのかは。
何も聞かない彼に全てをぶつけることが愛なのか、
それとも、何不自由なくテニスの道を踏みつづけさせることが愛なのか。

そもそも。
俺は真田のことなんて愛しているのかさえも。

そもそも。
俺は仁王のことを愛しているのかさえも。






「仁王」






「偽らない事は、愛なのか?」




仁王は俺とあった目線を床に叩き落とした。
ぐちゃぐちゃにして落とされてしまった。

わからないんだよ。仁王。
俺は誰が好きで誰が必要か誰もいらないのかお前がいるのか。

俺は仁王が好きなのか?

教えてよ、仁王。
君が言うなら、きっとそれは真実なんだろう。


仁王は、

イライラしたように、足を運んだ。
どん、と俺をベットに叩きつけ、顔の両脇に伸びた腕が俺を閉じ込める。

もしかしたら、このまま殺してくれるのかもしれないと思った。
唇を塞いで。
(まぁ、そんな非現実なことがあるわけないのだが)

限りなく近い仁王の唇から熱に浮かされるような熱い息が漏れた。
それを俺は吸い込んだ。
あつかった。
双眸が双眸とであった。
今度は叩き落とされはしなかったが、変わりに、仁王の奥にある途惑いを拾い上げてしまった。
すまない。
君を苦しめている。
でも
もし、君がここで口付けの一つでもくれてやったのなら、楽になれるのに。
しかし、一つの地震でも一つも物音でもあれば、今この瞬間に偶然に出遭えることもできた唇は、確かな悪意をもって触れられることはなかった。









「わからない」







仁王はとても悲しんでいる様だった。














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うーん、この話はSSじゃなくて漫画じゃないと伝わらないような…。
えーと、キッカケはスパイダーマンの「偽ることが、愛なのか」という
看板の宣伝文句です。
見た瞬間この話がビビッときました。

なんていうか、幸村は仁王には不安とか安心とか哀しみも苦しみも愛もつたえているんですよ。
ただ、真田には何も心配かけさせたくないと何も喋らない。ただ真田の喜ぶ発言を選んで御人形さんのように愛している。
みたいなのが前提にありまして、そんでもって「偽ることが、愛なのか」と。
仁王につながるわけですよ。
仁王はブン太みたいに「全てを話し合えるのが」という事がとても難しいことだけど、それは究極だとどこかで思っていて。
それに対して、幸村は本当は真田が好きなのか仁王が好きなのかわらないないんで、仁王に聞くわけです。
「偽らないことは、愛なのか?」 つまり「俺は仁王が好きなの?」と。
人任せです。
どちらにころんでも従うつもりなのです。
幸村はそういうずるい人なんです。

でも、仁王は決められない。
真田を愛している事を知っている幸村をこうこいう方面でもっていっていいものか、でも、それでも幸村が好きだ、と。

なのでわからない、となるわけです。


あ、SSにしなくても、この説明をあげればいいんじゃないですかな(死)

とりあえず、久々にSS書いたのでわけわからんSSになってしまいましたーわははすいません。