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夢 み た あ と で 
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夢をみた。

























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でも、忘れた。












目覚ましが鳴る前に俺が起きるのは、さして珍しい事じゃない。
今日この頃、は。
蒸し暑い日が続く中、朝だけは涼とした風がカーテンを揺らしていた。


はぁ。


目を開けて、天上を見据えて溜息が漏れる。
無意識にのことを考えてしまったから。
凪さんでもなく誰でもなく、ただ一人、のことを。


「あー………だめだ」


かぶりを振る。
振った頭の中で、淀んだゼリーのような気持ち悪さが脳を支配した。
毎朝毎朝毎朝毎朝のことを考える。
考えないようにしているのに、考えてしまう。
…一日の始まりでさえも苦しいなんて、最悪だ。
せっかく風を入れて空気を入れ替えようとしているのに、意味もない事を自ら
繰り返している。
あきらめたように眼を瞑ってベッドから起き上がると、床に転がっている雑誌やら漫画やらを
足で掻き分けながらYシャツを探した。
お袋が壁にかけてくれたぱりっとアイロンのかかったYシャツと、床に転がったぐちゃぐちゃの
Yシャツが目にとまる。

俺はぐちゃぐちゃのTシャツを拾って身に纏った。












○○○oooo。。。。。。.....................


あの時は、ただ側にいればよかった。
ただ側にいて、ただ一緒に登校して、ただ3人で飯くって、ただイベントを過ごして
ああただの友達だったんだ。
それがいつの間にか





「私さ、猿野のこと好きなんだけど」


突然だったな、おまえの告白はよ。
無理だって言われてた十二支に合格して舞い上がって、そんでもって俺の部活が決まったあの日。
それも凪さんと出遭ったあの日によ。
タイミングってもんをまるで考えてないんだよ。

だから言っちまった。



「俺、凪さんのこと好きなんだ」
「…どーせ、また一瞬の恋なんじゃないの?
この前だって、バレー部のナントカちゃんが〜って騒いでたし、その前はテニス部の部…」



「本気なんだ」

「………そう」


、いつも側にいたから、俺の「本気」の具合をすぐにわかってくれたな。
…近くにいすぎて、俺のことわかりすぎなんだよ。バカ。
俺が融通聞かない、自分の好きなヤツしか振り向かないこと知っているからあきらめたのか?
この、根性なし。





何で俺が焼餅焼きなのを知らないないんだよ










おまえは側にいる女になってた。


○○○oooo。。。。。。.....................









「おはようございます、猿野君」



朝練に遅れそうなので、朝飯は購買で買うことにした。
昨日の教科書をいれっぱなしのカバンを引っ掴んで、踵が潰れた白いコンバースをつっかけると
二階の部屋から留め忘れた目覚ましが鳴り響く音がした。
あー、めんどくせぇ。
ほおっておいてドアを開けて玄関を出ると、子津が俺のことを待っていた。



「よっす!なんか今日は早いな」
「そんなことないですよ。猿野くんが出てくるのが早いだけです」
「……嫌味か?」
「えっ!?い・いや、決してそういう意味ではないっすよ!!」



慌てふためいた子津を見て、俺は軽く笑った。(とても悪意な方向に)

ああ、こんな嫌味な自分が嫌になる。
裏を読みすぎな自分が。
子津は、このうえなくいいヤツだ。きっと世界にこんないいやつはいないと、俺が保証してもいい。
横目で子津をみると、俯き加減で道路と睨めっこしながらせかせかと足を進めている。
小粒のそれでも真剣そうな目と口元が、俺に教えてくれた。
ああ、  おまえが嫌いでたまらない。



「…あの、猿野君」
「なんだ?」



ほら、きた。



「……えーっと、この前に頼んだ事なんですけど…」



昨日針仕事で失敗でもしたのか、指の先バンドエイドが捲いてある。耐水性の。
さっきからしきりにその角を爪で弾いている。



「…頼みごと?」
「ほ・ほら、聞いてくださいって、…頼んだじゃないですか」
「…なんだっけ?」



暑いなぁ。



「ですから……………………………さ ん の ……」

「暑いなぁ……日に焼けてどこぞの犬っころになっちまう」

「……好きな人をですね…

「しかしそれ以上に焼けて犬ステーキになる可能性も…」

「き・聞いてくださいってたの………………猿野くん?」

「あ、俺がなるまえに犬が焼き犬になっているか」

「猿野君」

「はっはっは、そうしたら辰のから揚げと一緒に食ってやる」

「っ猿野君!!」

「…なんだ、子津チュー」

「……からかってるでしょう?」

「いんや」


朝に夏が被ってきた。
風も止んで蜃気楼で空気が歪んでいる気がした。
ああ、あちぃ。
あつすぎて頭がおかしくなりそうだ。
だから、ちょっとおかしくなった頭のせいで、口がちょっとばかり間違って動いてしまったんだ、
わかるか?子津。
間違ったんだ、この暑さのせいで。
まちがったんだ。



「うん。アレ、駄目だって。」
「……」
、他に好きな人いるってさ」





纏わり付く熱気を払いきれないようで、蒸し暑い気持ちで背中に汗をかく。
変だな、暑いのに冷たい汗でブラウスが濡れたよ。

おまえも頬が濡れそうだから手のバンドエイド張り替えたほうがいいぞ。眼に。
耐水性でよかったなぁ。








     
         〇
                     ○
               。
                . 。                   。
           .

               。            。..    .       ○
   .              〇
                             ○
                       。
                     .
          。       。..    。
私ね、子津くんのこと好きになったんだ。
猿野、仲よかったよね?




距離おいて 初めて気づく 恋ゴコロ   ってか?
は、冗談じゃねぇよ。
……冗談じゃ、ねぇよ。













「………そっすか」


子津が最期に強くひとはじきしたバンドエイドは折れ曲がって、汚くなっていた。
弱弱しい微笑が具間みえる。

この時ばかりは、少し、感情を持って産まれて来たことを後悔した。









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「ねぇねぇあんちゃん、今日の帰りアイス食べない?」



放課後の練習が終わって、部室で着替えているとスバガキが袖を引っ張った。
ここは部屋の中で太陽が当らないことを神に感謝しているが、その分、密室の湿気と
ヤローどもの熱気と埃で余計にじめじめとしている。
スバガキが言うのも最もだったが、今日はそんな気分じゃない。



「わりぃが他あたってくれ、他」



おさきに!
と、俺は校門までつっぱしった。
もう7時だというのに、外の天気はまるで3時のように明るい。
しかし明るいというのに、あまり光線の痛みは感じなかった。



「猿野」



一点の影のない外に少し浪漫を感じた時、俺は呼び止められた。
制服のままで校門の前につったって、しかも靴下は履いていない。
素足のまま突っ込んだローファーはやけに暑そうだ。
オマケにどらえもんの下敷きで顔をバタバタと仰ぎながら、ハンカチを頭に被っている。
うーーん。自分の知り合いだととは思いたくない。



「……、何してんだ?」
「アンタをまってたのよ」



あー暑かった。
と、は財布と鏡と筆箱以外は、おそらく何も入ってないカバンを持ちあげた。
…なら、なんで校舎でまっていなかったんだ?
結構マヌケだ。



「よし、帰ろう!今すぐ帰ろう!あー暑い!」
「いっとくけど、ジュ―スもアイスもおごらねぇからな」
「あっ!それいーねー!ナイス!」
「だからおごらねーかんな!」



ケチ―…。
と呟やいて、は大人しく隣を歩きはじめた。
はじめからおごってもらう目的じゃない事はわかっている。
もう予想はついていた。
靴下型に日焼している素足が渇いた道を蹴るたびに影がちらついて、道路には唯一の影ができる。
案の定、道路で信号待ちをしている時に口は動いた。



「あのさ、聞いてくれた?」
「ああ?」



とぼけてみる。



「…このあいだ頼んだでしょ、子津くんのこと」
「…ああ、アレね」



そろいもそろって、同じこと聞きやがる。
似たもの同士なんだな、けっこう気があうじゃねーか。
そして、おまえら両方そろってオオバカだ。俺を信用してるなんて。
俺はごく自然に喋ろうと努力した。まぁ、緊張して明るくなりすぎても、暗くなってしまっても、
「猿野は優しいから」という思いで片付けてくれるのだろうけど。




「子津さぁ、好きな子いるってさ」
「……………あ、……そうなんだ」


おまえだけど。




沈黙が道を照らす。





「………その子ってさ」
「ん?」



聞くな。

聞くなよ。

そんな事聞かれたら



「もしかしても私じゃないよね?」



俺は嘘つきになってしまうから。



「…もしかしても、そんなことあるわけねーだろーがよ」



俺は思いっきりを抱き寄せて頭をかきまわした。
俺の脳みそもの脳みそもぐるぐるまわった。
の髪が手に絡み付いて、無言で泣く。
猿野、それは本当なの?本当なの?
子津には私以外の好きな人がいるって本当なの?
それは決して俺への疑いの問いではない。
事実を否定しようとする問いだ。



「ああ、アイツはバカだ!大馬鹿だ!!」



そのまま髪をひっつかんで胸に押しつける。



「ほら、言え!バカー!って!」
「…馬鹿はアンタじゃないの?」


Yシャツ越しに笑う気配がした。
うん、よかった。泣いていない。へこんだっぽいけど、泣いてはいないみたいだ。
ああ、でも、ごめん、ごめんな。俺は嘘を付く事をやめずにはいられない。
おまえが俺以外の男に笑ったり、腕をくんだり、幸せな顔をするの
許せないんだ。俺だけのものだったのに。

…俺って我侭か?無茶言ってるか?

そんなこと、俺よりよく知ってるだろ、




「いっそのこと俺を好きになれば?」


急に朝に止めてきていない目覚ましが、けたたましく俺の中の心臓となって鳴り響いた。
警告?夢の終わりを告げる警告?
壊れそうだ。


「…はぁ?なに馬鹿な事言ってるのこの猿は」


そんな、ふっきれた眼を向けないでください。
顔を上げたの目が歪む。きれいなまつげ。山と谷を描いて俺を見つめる。


「…だいだいアンタが私をふったんでしょうが」


そりゃーまぁそうなんですけど。


「ふふふ、そんなこと言っておいて…モテル男は辛いな…」

「あーハイハイ、好きですよー猿野くんダイスキ!格好よい猿野天国(16)ダイスキ!」



あきれたふうに、俺の胸から離れては言った。
俺のからっぽになった腕はだらしなく下に下がるしか脳がない。
仕方ないので頭に組んだ。
はかきまわされた髪を手で撫でつけるように抑えてから、それから、さり気なく1歩離れた。
遠慮しているんだな。俺が、凪さんのこと好きだと言ってしまったから。
ああ、前よりほんの1歩離れて見守るようなこと、、そんな事はしなくていいから。



「なんだよー俺は真面目にだな」

「そうですね、猿野くんはいつも真面目なんですね」




本当のことなのに。


おまえが俺だけもものになっているのを望まずはいられない。
おまえが俺だけの側にいるの、求めずにはいられないんだ。

いつかこの事が陽のひかりに当てられて、責められる日が近いとしても
にひどいとののしられても、に嫌われても、に泣かれても、

どんな未来がこの先にあっても。











○○○oooo。。。。。。.........................................。。。。。oooo○○○














「おはようございます、猿野君」









そして今日もまた、
俺は、長い夢をみている。











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題名まんまですが、 GARNET CROWの夢みたあとで、を聞きながら。
いやー猿は黒いんじゃなくて、我侭なんだと思うんですよねぇ。
捨ててもいいけど、誰かに獲られるのは嫌だ、と。おお!我侭バンザイ。
でもコレは妹の影響でアラゴルン×フロドの曲にしか聞こえないんですー(笑)