空
       空
空空空空空空空空空空空
空   空    空    空
   空       空
  空 空空空空空空空      
      
         空
   空空空空空空空空空空

        恋 
         恋
   恋恋恋恋恋恋恋恋恋
      恋     恋
   恋  恋     恋  恋

   恋   恋        恋    恋

  恋   恋   恋   恋
 
    恋        恋
      恋      
         恋 恋

           
とかしちゃったり。












「司馬君、今日も帰っちゃうの?」


急いで脱ぎ捨てたジャージをカバンに突っ込むと、兎丸が俺のブラウスの袖口をついついと引っ張った。
接続詞に力を込めて、大きい瞳が俺を見つめる。
口にださなくても兎丸の言いたい事はだいたいわかるし、兎丸も俺の言いたい事をよく理解していてくれる。
俺はカバンのチャックを占めながらいつのもように、コクン、と1回頷いた。


「…う〜っ」


あきらかに不平を訴える眉根のしわは、俺の急ぐ手を止めさせる事に成功する。
ため息を1つ吐くと、兎丸を柔らかい帽子の上から2・3回軽く撫でてやった。
軽く目を瞑りそれに応じるこの同級生は、それでも満足しない様子だ。
俺の手をとり指を絡ませぶんぶんと大袈裟に ゆーびきーりげーんまーん!と叫んで
バシッと痛いくらいの勢いで俺の手を振りきる。
それから、もう一度、太陽のように大きい目で見つめ直し


「明日こそ一緒に帰ろう!」


と、返事をしない俺を涙目で見送った。





なんて事だ。


今 日 は 1 分 も 無 駄 に し て し ま っ た 。




ジャージを突っ込んだ所為で膨れ上がったカバンを引っ掴んで校門を走りぬける。
MDも邪魔になるのでしまい込んだ。
途中で後ろから、トンボを倉庫に片付けていた猿野や子津に声を掛けられたけど、聞こえないフリをした。
しょうがない、振りかえったりしたら空気の抵抗を受けて、走るのが1秒遅くなってしまうから。


信号をいつも通り無視して、工事現場の柵を飛び越える。
近道なんだ、ココは。13秒ぐらい短縮できるんだ。(俺調べ)
灰色のブロック塀をよじ登っておもいっきりジャンプしながら飛び降りたら、
を飛んでいるような気分になった。
あまりに気持ちがよかったので、9秒のロスだったけどもう一回やってみた。
下校する他の生徒にじろじろ見られたけれど、そんなのはどうでもよかった。
世の中にはいろんなものが生きてるんだ。俺がおかしいんじゃない!


そ う 、 俺 は お か し く な い! 空 を 飛 ぶ っ て 最 高 な ん だ よ !




━━…‥‥・・――――――


電車の窓から外を眺めた。
電車はいくら俺が頑張っても早く走らない事に最近ようやく合点がついて、静かにする事にしている。
景色が目の前をよぎっていく。
どうして近くの景色は早くすぎていくのに、遠くはゆっくり過ぎていくのだろう。
毎日思う事だが、家につくと毎日忘れる疑問を今日もまた考えた。


「…それでねー」


反対側のドアに寄りかかっている女子高生の声がこちらまで聞こる。
スカートを誇らしげにゆらしてその指に髪を絡める。


「新曲が出たからタワレコまで買いに行なかい?」
「あー、私バイト給料日明後日なんだよねぇ。まぁいいけどさ……あ、メール」


軽快な着メロを鳴らした携帯を取り出して、片方の女子は一心不乱に片手で返事を打ち出した。

俺もタワレコ行って色々新曲チェックしたい。
バイトして新しいコンポ欲しいし。髪もまた染め直さなきゃいけないし。シャーペンの芯切れてるし。
携帯もそろそろ壊れてきたから新機種欲しいし。靴もナイキの新シリーズ出たし。最近このサングラス飽きたし。
あーーー、俺もどこかへ出かけたい。
家と学校以外のどこかに出かけたい。
出かけたい出かけたい。

行こうか?
なんの気なしに
が目に入った。
あーいいなぁ、俺もどこでも好きなところに行きたい。
っぽく自由に。縛られず。

っていうか、なんで俺はこんなに早く家に帰ろうとしているのだろうか。
何故だろう約束なんてしていないし、ましてや頼まれた訳でも強要された訳でもない。
俺が勝手に速く早く帰ろうとしているだけなんだ。そうだ、勝手に。
一方的に、だ!
なら勝手にどこへいってもい
ガタン




妙な震動とドアの開くでかい音、下車する駅名がやる気のない男の声と共に流れた。
俺は今考えていた事をきれいさっぱり忘れてしまった。
そのかわり、いつもちょうどピッタリ階段の横に止まるはずのこのドアが、1車両分離れて止まった事を毒ずいただけだ。


ち く し ょ う 、 今 日 の 運 転 手 新 米 か よ 、 こ れ じ ゃ 家 に 帰 る の が 3 秒 遅 れ る だ ろ う が !





━━…‥‥・・――――――




家の2メートル手前で、俺は急いでバラバラに散った髪を両手で梳かして整えた。
前髪を指先で摘んで真っ直ぐに降ろし、サングラスをカバンに押し込む。
家の近くの道路で遊んでいる子供に注意を払ったあと、俺はゆっくりと汗ばむ手でチャイムを押した。
いつものことなのに緊張する。

ピンポーン

機械音と共にスリッパが床を擦る独特の足音が俺を震撼させる。鍵を外す音。開く扉。





「おかえり、葵」
「ただいま、姉さん」



姉さん。

姉さんが半開きにしたドアを潜り、玄関に侵入する。
リビングのドアが開きっぱなしになっていて、中からテレビの音と鼻腔を擽る香りがした。



「あ〜今やっと帰って来て、小腹が空いたからちょっと焼きソバ作ってたの」
「やっと……って俺より近い大学だから、いつも早く帰って来てるクセに。しかもこんな時間に焼きソバ食べて………太るよ」
「葵のバカタレー!言うなそんなこと」



怒ったフリをして俺を叩くその拳も可愛い。
姉さんの攻撃を肩で受けながら軽く笑うと、彼女はいつものように頬に手を当てて溜息をついた。



「葵の声ってホント可愛い。誰にも聞かせたくないわぁ」
「またそんな事言って。姉さんブラコンだと思われるよ」
「だって、可愛いんだもの。自慢の弟よ。ね、葵は何人にその声聞かせてるわけ?」



俺はやめてくれよ、という顔をわざとつくった。
それでも、ほらいってみなさい!と (言うと思ってたんだ) 騒ぐ姉さんに、俺は目の前で指を折って数えてみせた。


「1・2・3・4・5・6・7・………………1。姉さんだけだよ」
「そんな事言って、シスコンだと思われるよ」



むすっ、とした顔は からかってないで正直に答えなさい と語っているのと同じだ。
心外だなぁ。俺は正直なのに。姉さん以外にこの声は聞かせたことないんだよ?
姉さんが望むから。




もういいよっ。と言ってリビングに帰った姉さんを、ドアが完全に閉まる最後まで見送り、2階の自分の部屋への階段を踏みしめる。
簡素なドアを開けると、西向きの小窓からまだ青い空が覗いていた。
白いレースのカーテンが風に泳いでいる。たぶん母さんが換気に開けたのだろう。
少し肌寒い気がして閉めようと窓に近づくと、何かが一瞬通りすぎたので、窓から下を覗きこんだ。
さっきの子供達が紙飛行機を作って飛ばしているらしい。
広告で作ったのだろう、特有のごちゃごちゃとしたカラー模様の飛行機が手に握られている。
何人かはきちんと折り紙で折ったらしく、統一されている色彩の飛行機も飛ばされているが、あまり遠くへは飛んで行かなかった。
特に青の折り紙は最低に飛ばなかった。
風に嫌われて、それとも飛ばし手か、あるいは空か。


いつしか俺は窓から半身を乗り出し、空に向って真っ直ぐ飛んでいく紙飛行機をすごい情熱で追いかけていた。


色とりどりの紙飛行機は自由に空を飛んでいった。
浮いたり沈んだり見えたり見えなくなったり飛ばされたり流されたり。
そうしながらも確実にどこか遠くへ進んでゆく。うらやましい。
どこまでも行けるなんて。おお憎い、紙飛行機。



これって
をしているの?
(空のように俺も自由にどこかへ行ってしまいたい!ここを抜け出して!)



「ね、葵ー?」



窓から転落しそうな俺を下にいる子供達がびびって見ている時、ちょうど姉さんの声が耳にとどいた。


「何、姉さん?」



俺は今考えていた事をきれいさっぱり忘れてしまった。
姉さんに何かあったのかな、姉さんが俺に頼み事かな、姉さんが姉さんが姉さんが姉さんが姉さんが姉さんが姉さんが
姉さんを
してるよ。



そしてまた、俺は
最低に飛ばない飛行機の色の髪を揺らして姉さんの元へと帰っていく。

そしてまた、俺の
する空が、に勝てずに暗くなっていく。






俺、姉さんが一番好きだから離れられないんだよ?ほんとほんと。
じゃあ、試してみる?
今日合計で俺が何秒遅れたか数えてみてよ、それに4を足して、倍にして。
それから6を引いて2で割ったあと、俺が遅れた時間をを引いて…


















ホラ、1でしょ?




>>> BACK TO THE TOP (NEVER ENDING) >>>












☆━━…‥‥・・――――――――――――━━
山瀬さんに相互リンクの記念におしつけたものでございます。
☆━━…‥‥・・――――――――――――━━