ガ―――――――――

テレビというテレビが、いっせいに同じニュースを映し出した。


今日和。臨時ニュースです。一週間後に世界は滅びます。
























(7)











テレビの中の女の人は、静かにまた、同じ事を繰り返した。

「一週間後に、世界は滅びます。」


……滅ぶ、て。


なんかのゲーム画面?(PS2はしまってあるけど)
今日はエイプリルフーフなのか、はたまた局長の多大なるちゃめっけなのか、
単なるいちテロリストによる電波ジャックなのか。
それともウチのテレビがついにイカれて、反乱をおこしてしまったのか。(アニメばっか見すぎ?)



朝食に集まった私と母さん、父さんは、そのまま手を止めて
ニュース画面に魅入った。

女の人は続けた。


ただ今から、全国民は一切の仕事をとりやめて、各自各々最後の一週間を
自由にすごしてください。悔いのないようにすごしてください。
繰り返します。
ただ今から、全国民は一切の仕事をとりやめて、各自各々最後の一週間を
自由にすごしてください。悔いのないようにすごしてください。




お父さんが、読み終わった新聞をテーブルに無造作に置いて、
「は」と、軽く嘲笑した。
それから、いつもの習慣の、各砂糖を一つ落としたやや温い珈琲を グビッ と
一気に流しこむと、イスから立ち上がった。



「もうそろそろ行くよ」



母さんは慌てて、台所に御弁当を取りに走っていった。
その音をBGMにケータイを開いて時間を確認すると、もう7時にさしかかっていた。

さぁ、私も学校に行かなくちゃ。

今日は部室の鍵当番なんだ。私がテニス部の鍵を開けなきゃ誰も入れない。
洗濯物の山から適当に靴下をひっぱりだして、足を通す。
それから鞄に鍵が入っている事を確認して、(それにしても監督の選んだキーホルダーはセンスがないなぁ今時サザエボンて。) 玄関に出た。

ローファーを履いていると、母さんが帰ってきた。



「あ、。今日は御弁当作れなかったから、コレで買いなさい」



え! 父さんのはつくったのに!?(差別だ!)
文句を言おうと思ったら、それが輝かしい千円だったので
慌てて飛出した言葉を踏みつけながら、夏目漱石さまを受け取った。
これで帰りにNARUTOの続きを買おう!(固い決意)
200円で昼食を済ませば、2冊も買えてしまう!万歳!
う〜ん、私はサスケは中忍試験に受かっていると思うなぁ。
う〜んでもそうなるとナルトもうかって、そしたらイルカ先生の立場がなくなるなぁ
そう思いながら玄関のドアを開け、いつもどおりに私は家をでた。



「母さん、いってきます!」















STATION

ミー--ン             ミー-ン    ミン                ミ       ミミーーン
    ミン       ミー-ン            ミ  ミ    ミー-            ミ               ミ    ミ   

           ミ        ミ-ン   ン         ミン            ミー--ン




私を迎えたのは、横溢した蝉達だった。

駅員も、キヨスクのおばちゃんもいない。
ついでに言うと、トイレ掃除のおばちゃんもいない。
ためしに定期をさし込んで、ホームにおりたってみたけれど、誰もいない事に
変りはなかった。
さっきから電光掲示板だけが、几帳面に「ただいま、電車は隣の駅をでました」 と
業務をこなしている。
私はホームから顔をだして、電車が来ないことを確認した。



「……もしかしなくても、学校は休み?」



そんなことを呟いて、それから私はもう一度、左右を確認した。
ふみきりだって作動してない。もしかしたら、これはチャンスかもしれない。


私は思いきって、鞄を握る手に力を込めて、ホームから線路へ飛び降りてみた。


コレ、一度やってみたかったんだよね!





それから、夢中になってしばらく何回か飛び降りごっこをした。























ビクッ



急にふみきりが鳴り出した。


その時丁度「引いて下さい」とばかりにレールの上にいた私は、とてつもなく焦って
あわてて前後を確認したけれど、電車どころか、人一人、虫一匹、絶えることない風だって
やってくる気配がない。




蜃気楼に揺れてチカチカとふみきりの赤が横行する。



何も来るはずがないのに、ふみきりは何かを一生懸命呼び寄せてるようだった。





私は急に怖くなって、急いでホームによじ登った。

あああ、はやくここから出よう、怖い怖い、何かが来る、怖い、来る  …!



よじのぼった時に、ホームの端でひざを擦りむいたようだったけど、
そんなことはどうでもよかった。
何で私、一人で飛び降りゴッコなんてしてたんだろ、バカじゃないの、
早く帰らなくちゃ!
 帰らなくちゃ !かえらなくちゃ!!
来たときには、誰もいないことに一種の征服感を感じていたけれど、今はただ
この場所が異端な場所にしか見えなかった。
もしかしたら、ここのどこかに、魔界へのゲートが開いているかもしれなかった。






定期を急いで通そうとしたが、全然上手く入らなかった。
ぐしゃ っとつぶれて、そしてその弾力で後ろにはじけて飛んでいった。

私は拾う気にもならずに、そのまま改札をかけ抜けた。
誰かが、背後から追ってくる気がしてたまらなかった。
(さっきまで誰もいなかったのは私が一番良く知ってるはずなのに)











小さくなる音を背中で聞きながら、私はなんとなしに悟った。



















やってくるのは、世界の終りなのだ。


















HOME



「母さん!父さん!」


帰ってくると、二人が玄関で私を待っていた。


どうやら、世界の終り≠ニいうヤツは本当のホントにやってくるらしい。
父さんも車で会社に向かう途中で、あまりに静かなこの状況を眼前に持ってこられ、
たまらなくなって引き返してきたそうだ。



「信号なんかも所どころ、壊れていたぞ。それから何人か自暴自棄になって
 車で暴走していた。電車も止まってるみたいだし、道路に寝転んでるヤツもいた。」

「世界の終りだっていうの?…本当に?」



母さんはいぶかしげな顔で、いつもならめざましテレビで「今日のわんこ」が放映してるあたりなのに、今も朝のキャスターの映像が何回も繰り返し流されているブラウン缶をじっと見つめた。



今から、全国民は一切の仕事をとりやめて、各自各々最後の一週間を
自由にすごしてください。悔いのないようにすごしてください。
繰り返します…



悔いのないように。

その時、どうしようもなく、何の脈絡もなく、鞄からサザエボンが落ちた。
ぶさいくなキーホルダー。カツン、と平凡な音を立てて床に転がる。
そういえば、これってジロちゃんもおそろいであるって言ってた。(それもすごい自慢気に)


…ジロちゃん。
……跡部。
………宍戸、チョタ、岳人、忍足、樺地、滝、日吉。




ああ、そうだ。




私、皆に会わなくちゃ。
会わなくちゃ。
会って、会って………………………それからは、会ってから考えればいい。


私はサザエボンをひっつかんだ。



「母さん、私、学校に行ってくる!」

「学校?」

「うん、夕方までには帰ってくる」

「………」



父さんの何か言いたげな目線を、母さんはわざとクーラーをつける音で遮断した。
それから、


「ちょっとまってなさい」



そう言って奥に引っ込んだ母さんは、昨日二人で買物に行った時に買ってもらった
ミニ―ちゃんを連想させる、赤に白い水玉プラスチックのボンボンを持ってきて、
丁寧に私の頭にくくりつけてくれた。
それから、ダースのチョコレートを一箱くれた。



「ありがとう」



中学校はこういう飾りゴムは禁止なので、少しドキドキした。
お出かけするような気分だ。



「何かあったらケータイで連絡いれるのよ」

「わかってる」



ローファーでは流石に長距離は歩けないので、スニーカーに履きかえる。
玄関から出ようとすると、父さんがのろのろと出てきて、それから私に御守りを
渡してくれた。(どこから出したんだろう)
とりあえず、それを大切にしまい込む。









「じゃあ、母さん、父さん、いってきます!」



























最後の一週間の始まりだ。