伸びを一つ、する。
起きっぱで意味もなく唐突にカーテンを開けると、朝日が天を照らしだしていた。
綺麗……
雲の上から膨大な光が降り注いで何か神々しい感じさえ感じる。
ベランダに出て、(洗濯物を干すぐらいにしか使わない狭いベランダではあるけど)
手すりに寄りかかって、少しの間空に釘付けになった。
………よし、今、決めた。朝にの空を見たら良いいことが起こる、って事にしよう。
勝手にジンクスを作りあげてみて、それから自分の顔が密に笑っている事を
否定はしなかった。
何せ、今日は初デートなんだから。
クラスの山田君と、5時待ち合わせで地元のお祭りにいくんだ。
新鮮な冷えた空気を纏って部屋に戻り、タンスの上5番目の棚をそっと引出す。
防虫剤の匂いが鼻腔をくすぐったけど、でもそれ以上に期待の香りがした。
紺の浴衣。大柄の向日葵が華を添え、赤い帯が更に花をそえる。
お母さんと高島屋に行った時に買ったもので、かんざしも巾着も一式揃えた。
…ああ、どうしよう。
浴衣を見るだけでドキドキしてくる。こんなにも綺麗な空に早くさようならを
言いたい。
はやる気持ちを仕舞うように引出しを急いで閉め、なるべくタンスを視界から外し
ながら部屋を出た。
廊下を出ると、隣の部屋のドアは珍しく固く口を閉ざしていた。
いつもなら信じられない早さで家を出る兄なのだが、今日は久し振りの休みらしく
沢山沢山寝ていたいらしい。
でも、お祭り好きな兄の事だ。きっと夕方には起きてくるのだろう。
そうしたら、去年輪投げで取りそこねたイルカの置物の代わりに、赤い金魚を
獲ってもらおう。
そう思い静かに階段を降りて、いつもの日曜日にしては早過ぎる朝食を取りに
行った。
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