薔薇

薔薇の花言葉  愛・嫉妬・あなたを尊敬します・愛情・美・温かい心・照り映える容色・私はあなたにふさわしい・内気な恥ずかしさ・恋
赤い薔薇   愛情・熱烈な恋

白い薔薇   私はあなたにふさわしい・尊敬

黄色の薔薇 君の全てが可憐・嫉妬・薄れゆく愛・美

ピンクの薔薇 我が心・君のみぞ知る・暖かい心・満足




.+**我侭な美人**+.




夢はお嫁さん。

    金持ちで、カッコヨクて、優しい人のお嫁さんになって左団扇で暮らすのが理想なの!
    都内に一戸建てを買って、それはモチロン広いのよ。三階建てで天蓋付きのベッド完備、ベランダには薔薇園が合って、
    それから家の中にジェットバスがあるの。リビングには100インチのTVがあって、南向きの出窓から差しこむ朝日をカーテンで
    軽減しながら、お手伝いさんに入れてもらった紅茶をペットのヒマラヤンを膝に乗せながら、優雅に「笑っていいとも」を見るのよ。
    (コレ、日本のお茶の間の常識)そうそう、お菓子作りの好きなお手伝いさんが焼いたアップルパイと一緒にね!






    って、これは理想であって、本当にあったらそれはそれで最高よ!結婚したい気は満々よ!
    そんでもって、今、私の目の前で赤いベンツのハンドルを握ってタクシードライバー並の運転テクで
    車を転がし式場に向っている彼は、大手外資系会社のボンボンよ。
    倒産寸前のしがない中小会社の娘をやってるアタシの結婚相手よ。(つまりは政略結婚って事ですね!)

    一戸建てなんか目じゃないわ、マンション持ってるわよ。
    天蓋なんてどころか天井にプラネタリウム付けてくれるわよ。
    ジェットバスどころかプールつけてくれるわよ。
    100インチなんてケチな事言わないで映画館建ててくれるわよ。
    ヒマラヤンといわずライオン直輸入よ。


    でも、ああ、どうしてなの、
    私の好きな人はこの人じゃないの!
    しがない商店街の端っこに小さいお花屋さんを構える24歳独身、白いエプロンが眩しい金髪店長牛尾御門なの!






    バタン。
    赤い車のドアが青い空に向って挑戦のように空を仰ぐ。
    降りたったドアの外には、静かな郊外に立つ見事な西洋風のゴシックな教会。
    私が選んだ、最もこの町から近くて、最も小さな教会。
    だって小さくなければこの町の小さな花屋に飾りつけをお願いできないでしょう?

    そして、到着した私達を余所に小さな花屋は朝早くからせっせと黄色いトラックで運んできた花々を飾りつけていた。
    私と慶一さん(って名前だった気がするわ)は、いろんな花が咲き乱れる中教会の中へと入ってゆく。
    そんな私たちを今更気づいたようで、牛尾は立ち上がって一礼をした。



    「さん、高倉さん、ご結婚おめでとうございます」



    あら、今日は苗字で呼ぶのね、つれないお方だこと。
    いつもは君、って呼びかけて頼みもしないのに毎日1本ずつ花をくれるのに。
    でも、いいのよ、私の部屋、もうドライフラワーでいっぱいだから丁度いいわ。
    今日でそれもおしまいなんだから。



    「あはは花屋さん違うよ、もうは高倉なんだからさ」



    そういって私の腰に手をやる。
    ちょっと。気安く触らないでよね。牛尾の前で、他の男に抱かれる所見せたくないんだから。
    ひっぱたくわよ。ほら、この手をどけて!
    牛尾もなんとか言ってよ!私がコイツを好きじゃない事ぐらい知ってるでしょう!
    ……でも、結局、牛尾はただ黙ってしがない小さな花屋の作業に戻っていっただけだった。
    私が誰と結婚しようともかまわないのよね。そりゃ、そうよね。
    私の一方的な片思いなんですもの。



    「ああ、花屋さん」



    さっきのし返しに、私もよそよそしい呼名をつけてやったわ。



    「シオンの花も差しておいて頂戴ね」



    そのままくるりと反転して、私は後ろを振り返らずに、背筋をこれでもかっってほど伸ばして会場に入っていった。
    見なくてもわかるわ。牛尾は笑っているでしょう?あの人は困った時はいつも笑ってごまかすんだから。
    初めて会ったあの時も、遅刻しそうになった時にもわざわざ花屋の前を通った時にも、
    私の結婚の話をして、私とどこかへ逃げない?って、冗談風味に真面目に言った時もね。
    え?シオンの花言葉?忘れるはずがないわ。
    「ご機嫌よう」 つまり 「さようなら」  よ。
    貴方がこの前教えてくれたんだものね。




**************************************

    式の準備はとても忙しくて、少しだけ、小さな花屋の事をわすれる事ができたの。
    おフランスの白いレースがたっぷりついたウエディングドレス、イタリーのピンヒール、大粒のダイヤとトパーズをあしらったティアラ、
    ジャーマンのデザイナー特注のベール。
    ああ、金持ちっていいわ。なんだって買えるのよ。命さえも金で買えるわ。
    金細工の鏡の前で何度かターンをすると、ドレスがまあるく円を描く。いつか私にくれた白い百合の花みたいね。



    「ブーケには、百合の花も添えて欲しいわ」



    私は花嫁の控え室でせっせとブーケをつくっている小さな花屋に注文をつける。
    小さな花屋は少しこちらを見上げると、返事もせずに百合の花を何本か手に取って他の花とのバランスを考えだした。
    本当はブーケだってブリテン製だったはずなの。
    でも、またまた私が無理を言って、本物の花で創ったブーケを持つことになったのよ。
    これは気まぐれの我侭じゃないのよ。 
    だって、私の乙女の最後の瞬間まで貴方と一緒にいたいから。

    椅子にも座らず冷たい床の上に懺悔の様にしゃがみこんで、私の我侭を聞いてブーケを創ってくれている牛尾。
    変わらないのね。我侭を聞いてくれる所だけは。
    私は変わっていくのかしら、この土地を離れて、そして花なんか気にもしなくなってゆくのかしら。
    そして時々、トイレのライラックの芳香剤の匂いでも嗅いで思い出すのかしらね。
    結婚する時に大大大好きだった、小さな商店街の花屋さんを。
    そうね、きっとそうよ。ライラックの花言葉は「若き日の思い出」ですもの。


    時計の秒針と花の擦れる音が、ドア1枚隔てたざわめく教会の音を掻き消してくれる。
    二人きりなのに花とばかりお見合いしている彼に不満と、それ以上の寂しさを覚えて、
    いつもは見えない牛尾のつむじをツン、と透明のネイルで突付いた。



    「今日は、花、くれないの?」


    とんがった唇にのせた最後の我侭を聞いて頂戴。


    「……では、人生の門出にふさわしい花を、贈らせて頂くよ」


    そういって1本、飾りつけ用の花の束から つつっ と手際良く抜き出して眼前に差し出す。


    「なぁに、これ」


    4枚の花弁が寄り添って筒状になっていて、またその外側に楕円系の花びらがついている、不思議な形をした
    ピンクの小ぶりの花。それが一つの茎に何個もくっついて花を形成している。
    初めて見る花だ。きっとあのの店にも置いてなかったに違いない。



    「イカリソウ、って言ってね、花言
    「花言葉はバカ・カマトト・意気地なし」


    知ってるクセに。私が貴方を好きな事ぐらい知ってるクセに。
    どうして私を連れ去ってっていう我侭は聞いてくれないの。


    「……人生の出発って花言葉なんだ」


    牛尾は少し困ったような顔をして、でも口は笑ったままで、つまりは苦笑いでお得意の花言葉の知識を披露した。


    「そうね、まさに新しい人生を歩き始める今日にはぴったりの花だわ!」


    私はその変な花をふんだくって、匂いをかいだ。
    甘くって酸っぱくって、ああ、もうクリスチャン・ディオールの香水と混じってよく分からないわ、
    なんで今までつけた事もない香水なんてつけたのかしら、そう、そうね、今日は結婚式だもの、新しい夫の
    好きな様にしなくちゃいけないものね、でも私、牛尾が好きなのよ、ウエディングドレスはフラワーショップ牛尾≠チて
    刺繍されたダサイおそろいの白いエプロンでもいいの、靴は薄汚れたコンバース、頭には陽射しよけのための
    1900円のサンバイザー、ダイヤのかわりに缶バッチでもつけるわ、そしてジャーマン製のベールの代わりに、
    牛尾の暖かい眼差しがあれば、それでいいの、いいのよ、私。


    「……どうかしたのかい?…さん?」


    なのに、どうして貴方は、私を手放そうとするの。
    苗字でなんか呼ばないで、いつもみたいに名前で私の名前を呼んで。
    君、って笑ってお花を頂戴な!情熱の赤い薔薇を頂戴!そうすれば、私は喜んで黄色いトラックの荷台に乗りこむわ。
    ベンツのシートよりは乗りごごちは悪そうだけど、我慢してあげる!


    「牛尾、私」
    「花嫁が泣くには、早すぎるよ」
    「…!」


    差し出されたハンカチは綺麗な水色だった。
    でも、悪いわね、叩き落としてふんずけたら、汚れてしまったわ!


    「大ッ嫌い!顔もみたくないわ!出ていって頂戴!」


    ああ、牛尾の顔なんて、もとより涙で見えなかったわよ。
    揺らぐ水中の視界で音だけが牛尾の出ていった事を知らしめたの。
    嘘よ。嘘。私が牛尾を嫌いだなんて嘘なんだからね。
    知ってるでしょう?私が我侭で、無理ばっかり言って、いつも困らせてばかりだけど、でもとっても
    貴方が大好きな事ぐらい。    …知ってるわよね…?

    それから、ふんずけて足跡がついてしまったハンカチで涙を拭いたわ。
    牛尾の好きなグラウンドの匂いがかすかにしたの。
    もう一度だけ、あなたの後輩が出場するプロ野球の試合を観戦しに行きたかったわ。 二人きりで。



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    式が始まって、入場のためにドアの前に行かなければならなくなった。
    湿った水色のハンカチをバックに入れて、私は立ち上がる。
    そうね、我侭も潮時なのね。大丈夫、私は立って行けるわ。

    ドアの前で先に控えていた慶一さんは、私の事綺麗だね、って誉めてくれたわ。
    ありがとう。でも、ちっとも嬉しくないけどね。


    「ああ、そうそう花屋さんからブーケを預かってきたよ」


    差し出されたブーケは、オレンジのリボンで彩られ、飴細工のように甘そうで、砂糖菓子のように繊細な
    思い出の詰った花達だった。
    初めて会った時にくれたわね、‘我侭な美人‘のデンドロビューム。
    ‘たくさんの小さな思い出‘のカランコエ。
    落ちこんだ時に貰ったわ、‘天下無敵‘のモモ。
    私ぴったりね、‘自由気侭‘のネコヤナギ。
    リクエストの百合は‘変わらぬ愛らしさ‘のヒメユリ。
    そして‘遠ざかっていく二人‘のシュウメイキク。


    「ずいぶん地味なブーケだな」


    そうね、地味だわ。
    普段ならタダでもいらないわ。
    でも今日はいいの。大切な日だから、あなたの我侭を聞いてあげるわ、牛尾。
    あなたからのさようならの花束を受けとってあげる。


    「…?何かおかしいのか?

    「いいえ、慶一さん。…ほら、もう扉が開くわ、しっかり前を見て」


    盛大な音楽が鳴り響いて、重そうな扉から光が溢れ出す。私達はそこに向って歩き出した。


    …十分おかしいわよ、慶一サン。
    私が牛尾の言う事なんて、聞いた事がなかったんですからね。
    差し出されたシルクの手袋にエスコートされて私はしっかりと前を見つめた。
    何もわかってないコイツに、ちょっとした意地悪で手袋にシワをつけてやろうかと思ったんだけど、チクショウ、駄目ね。
    金持ちのシルクってのはシワがつかないわ。かわりに私の顔に酷いシワがついただけだった。






    「高倉慶一は病める時も健やかな時も妻を愛する事を誓いますか」

    「誓います」


    厳かに式は進む。
    たくさんの見守る目、天井のマリア様、赤い絨毯、壇上やベンチの牛尾が丹念に飾った花が私の結婚を推し進める。
    …ああ、祝う、のね。どうも卑屈になってしまうわ。
    神の前で偽りの愛を誓うなんて、牛尾以外に愛を誓うなんて真昼に見る夢のように、非現実的な空想のようよ。
    でも、あなたの作ったブーケが私を唯一現実に引き戻すの。酷い人。



    「それでは、は病める時の健やかな時も、夫を愛する事を誓いますか」

    「ち
    「すいません」



    一気に、教会に静かに拭きぬける冷ややかな風が拭きぬけた。
    重厚なドアを背に、私が通ったバージンロードを軽々と踏みつけ、白いエプロンを身につけて、太陽の光と同じ色をした髪を
    煌かせながら、あっけにとられている一同を嘲笑するかのように、花屋はまるで1本のスズランのように凛として立っている。



    「すいません、式の途中ですが、ブーケにこの花を入れ忘れましたので」


    そう言って、高く掲げられた1本のその花は、黄色い希望の色をした大輪咲きのスイセン。

    …私は笑いそうになったわ。
    ああ知ってるわ、その花を。何度も何度も繰り返して覚えたんだもの。
    これでも貴方から教えて貰った花言葉は忘れたことがないのよ。


    私はブーケを天井に向って思いっきり投げた。
    すると、天井を支配する壮大なステンドグラスのマリア様が、花を虹色に染め上げて、静かに笑った気がしたの。
    あっけにとられる新郎神父、親戚の方々を尻目に私は久々に叫んだわ。



   「牛尾!私をさらいなさい!!」











    黄色のスイセンの花言葉はそう、
も う 一 度 、 愛 して く だ さ い 。











   「OK、君!」


    ああ、やっと私を名前で呼んでくれたわね!
    嬉しくて勢いこんで牛尾のもとに駆寄ろうとしたの。
    でも、


    「どこいくんだい?」

    「…っ離して!」


    手首をふんずかまれたわ。
    離しなさい!往生際が悪いわよ!…でも、やっぱり力では適わないわ、い・痛い、ちょっと本気で握ってるわね!
    奴にはピンヒールのキックさえ通じないようだった。



    「動くな、君!」



    ふいに牛尾の声がして、私はそれに大人しく従った。
    牛尾が私に間違えた事を言ったことがあった?

    いいえ、
いいえないわ、ただの一度だって!





    カーーーン!

    風を切る音のすぐ後に、金属がぶつかる小気味良い音が教会中に広がった。
    フラワーショップ牛尾常用の銀メッキ製水差しが奴の頭にストライクしたみたいね。
    私は重力から解放されて、そのまま牛尾のもとまで駆寄る。飛びこんだ私を牛尾は笑顔でキャッチしてくれた。
    それから倒れている元・婚約者に向って言い放ったの。


    「悪いね。これでも僕は、野球部のキャプテンだったんでね」




















    そして私達は教会を後にした。









    「遅いわよ」

    「ごめんごめん。花がなかなか手にはいらなくってね」

    「バカね。そんな演出しなくたっていいのよ」

    「出ていって、って言う君の我侭を聞いてあげたかったからさ」

    「…ほんと、貴方ってバカね」













    私達は黄色のワゴンで逃避行をしたの。
    もちろん私は荷台に乗って、そしてイカリソウに囲まれながらね。



























イカリソウの花言葉 : 「人生の出発」または「君を離さない」



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牛尾っておとなしい子とかじゃなくて我侭な子が似合うと思うんですよ。そんでもってどんな我侭も叶えてくれる訳。
さすが白馬で登校の王子!ですネ!(笑)
あと花がいくつか出てきますが、咲く季節だろうが鉢植えだろうが知ったこっちゃありません。花言葉で選んだので。