彼女は

                        俺と同じくらい


無口だ。そして…
(勘弁してよ!)








「………(手をふる)」
「………」
「………(コクン)」
「………」


※朝の会話終了。







うーーん、うーーん、認められないが俺とは幼なじみらしい。
らしい、と言うのは俺は嫌だからではないのだ。
むしろ向こうがどう思っているのかにかかっている。
小さい頃からここに住んでいる俺達は、昔から家の行き来もしていたし親同士の交流だってある。
それでも、それでも俺がキッパリと幼なじみと言いきれないのには、には……。


当時
5才の頃の思い出...........。。。。oooo○○


「…、今日は何する?」←俺が喋らないと一日無言大会になりかねない。
「………」
「トランプ?」
「………(コクン)」
「………」
「………」
「…何がいい?7並べ?」
「………」
「………」
「……………………………………………お金」


--終了--








何故だかしらないが、彼女は幼い頃から異常……
(いやいや、俺がそれを認めてしまってはいけない!)
……ものすごい執着心があるのだ。
理由は、知らない。
生まれた時からそうだったのかもしれないし、が母さんの腹の中にいる時からかもしれないし、
あ、ひょっとするとこの世界が創造された時だったのかもしれないな。
兎にも角にも、は金の亡者だった。
そんな訳で幼なじみ、というものにもなんら執着がないのかもしれない。





\\\\\\\\\\\\\
IN・登校タイム\\\\\\\\\\\\\\





そして、いつもの通り、何の会話もない静寂な登校時間を歩む。
静寂といえば聞こえがいいが、どちらかというとうすら寂しい。
俺は一応ヘッドホンをつけてはいるが、音楽は聞いてはいない。
音楽は、君の吐息で充分だぜ…!と言ってみようとしてみたことはあるけれど、やめてみた。
「じゃあ、吐息代16年間払ってもらおうかしら………」と、さらりと領収書ごと手渡され、
俺の財産の破滅があっさりと脳に映像化されるからだ。



「あっ、あの……!」



そんなこんなで無言大会を続けて、俺とが校門前に差し掛かった時だ。
貧相な男が突然、俺達の目の前にに飛び出してきた。
危ない。もしコイツが自動車だったら今頃俺は華麗に宙を舞っていたところだ!
貧相な男は何やらもじもじとしながら、しかしやけに真摯な顔で真っ直ぐに俺を見すえている。
オイオイ。
やめてくれ、恥ずかしいのはわかるがちゃんとの方を向いてくれ。



「す・好きです!……あの、これ受けとってください…!」



バッ。
と効果音がつく程に勢いつけて手紙を差し出す。
……どうやら、コイツはここまできておいて勇気がないらしい。を正視できないようで
未だ俺に体勢と視線を向けたまま、手だけ隣りのに手紙を差し出している。(ハタから見なくても充分変だ。)
男の行動に対して、はまったくもって動かない。
俺も、何だか男の視線から逃れられずに見詰め合ったまま突っ立っている。
貧相な男も、それ以上は動けないようでそのままでいる。
異様な集団だ。
…………………………。
…………………………。
…………………………。
終始無言。
それにしても気になるのだが、さっきから男の手が緊張で震えまくっている。
す・すごい…!
このまま球を投げたらカミソリカーブに匹敵する、まさに稲妻のように球がうねりバッターに大ダメージを与える
イナズマ投法を生み出せそうだ!
おおお是非とも、犬飼に教えてあげたい!



「………(クイッ)」



俺があーだこーだと思案を張り巡らせていると、が俺の服の袖をひっぱった。



「……………(ぶんぶん)」



何?ホモは非生産的だあるからして私は賛成できない?
……俺だってごめんだ!(というか、激しい誤解だ!)
仕方がないので、俺は固まって動けない貧相な男の顔と体をギギギ…との方に向けてやった。
男の手は未だ震え続けている。



「………のこと……だよ」

「………!」



まぁ!とでも言いたげには驚いた顔をつくった。
……うん、でもまぁ、実際にが口を開いたらこう言っていたのだろう。
「……じゃあ聞くけど、貴方の資産はいかほど…………?」
が無口でよかったと想う瞬間。俺は仕方がなしに、重い口を開いた。



「……ごめん。ね、今は誰とも付き合う気はないって………」



途端に男に落胆が浮かんだ。
震える手を降ろし、横に納める。ああ、嫌だ。今日一日生きる希望を失った人を見るのは。
貧相な男は軽く一礼をするとヨロヨロと校舎のほうに向かって行った。
今度は手ではなく足をガタガタさせて。(兎丸の新走法に使えるかも……)



「……………何が気に入らなかったの………?」



その男の後ろ姿を見送っているのか、単にの進行方向にいるからなのか、とりあえず
校門の方をボーッと見ていた。
は、何故そう良くとられるのかは、牛尾先輩の歯がよくどうして毎回光っているのかぐらい不思議なのだが、
周りから見れば「神秘的」という甘いオブラートで包まれて、こう登校途中で告白されるのはあまりめずらしくない。
だけど、は俺から見ても充分格好良い男子からの告白も受け付けないんだ。
それはそれで俺は一安心なんだけど、少し不安になる。
こんないい人も駄目なら、俺も、俺も駄目なんじゃないかって。
だから振った理由はいつも聞いて、なるべくそこを直す様に努力している。



「………………だってね、あの封筒は上質紙でできていたの、安すぎるわ、せめてレザック以上の紙じゃなきゃ…
もしくはフェザーワルツ………………」



紙の値段なんて普通知らないよ……。
尊敬のような畏怖のような気持ちを持って、俺はの手を引いた。
とりあえずいつまでもここにいるわけにはいかない。
チャイムがならない事を祈りながら、俺とは教室に向かった。








¥¥¥¥¥¥¥¥¥
IN・教室¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥







「おはようございます。司馬くん、さん」



教室まで無事に辿り付き(何度か画鋲を金だと間違えて飛びつきそうになったけど)
机に荷物を降ろすと、前の席に座っていた辰羅川が声を掛けてきた。
それに俺とは頷いて挨拶を返す。
あいかわらず無口コンビですねぇ、と苦笑しながら辰羅川は眼鏡を光らせた。



「ところで数学のテスト、いかがでしたか?昨日返されたでしょう?
私昨日は休んでしまったものですから、平均点など出ていたのなら教えて頂きたいのですが」



そういえば辰羅川は数学が得意で、いつも校内1位を目指していたんだっけ。
でも生憎テストは持ちかえって机の裏に隠しているし、
(燃の日よ…はやくこい)
平均点なんて思い出したくもない。



「…………(スッ)」

「おお!さんテストをまだ持っていらっしゃったのですね!………はい?
点数の横に平均点が書いてあるのですか?………では、ちょっと拝見させてもら……!!!



バ サ ッ ………



辰羅川の手からテスト用紙が天使の羽のように美しく舞いおちる。
………?



「……さん……ッ!」

「…………(コクン)」



は妙に神妙に頷きながら、辰羅川の髪の毛をなで繰りまわしている。
辰羅川は已然、水木しげる調の顔で自らの時を止めていた。
何が何だかわからないので、とりあえずのテスト用紙を手にとって平均点をみて…み………



「……さ…………………さんてん……」

「……………(コクン)」



断わっておくが、決っして平均点ではない。



「手手手手手手利武溜……」



お・俺だってもうちょっとはマシな点数だったのに…辰羅川がカタカナと漢字を間違えてしまった
のにも突っ込むことはできない。
そして、は辰の髪の毛をなで繰りまわすのを止めない。



「…さん、あなたという人は……!ちゃんとテスト勉強したのですか!?
今回のテスト範囲は数学Bだけですよ!?」

「…………………だって…………お金の勘定に足算と引算と掛算と割算以外、つかわないじゃない………………」

「…まぁ…そりゃあ……そうなんですけどね……」

「…………(ため息)」



そして、はまだ辰羅川の髪の毛をを触り続けている。



「…何ですか?さっきから」



辰羅川は溜息混じりに、今まであえて口にださなかった疑問を呟いた。




「コレ、高そうですねぇ……」           ・ ・ ・ ・ ・ ・
「……ゴホン。え〜さん?これはですね、直に生えてるモノであって、値段とか、そういうものはつけられないんですよ?」

「…………………(コクコク)」

「よかった。おわかりいただけましたか」

「…………で、いくらなんですか……?」

「ですからッ!直にッ!生えてる



喧々囂々な二人をほおっておいてにしても、のこの点数はな…。
先生から呼び出しくらうんじゃないかと、心配で堪らなかった。
でも、数学だけならなんとかなるかもしれない。



「…?何だコレ?」



後ろを振りかえると、くしゃくしゃの紙を手に犬飼が立っていた。



、英語、11点」



駄目だこりゃ。





\\\\\\\\\\\\\シャーマンファイト・IN・十二支\\\\\\\\\\\\\\



「牛尾先輩まって〜〜〜〜ん!!」



自慢じゃないが、



「今日こそはーーー!!犬飼君にお弁当を〜〜〜ォォオ!!」



今、俺達野球部+は、



「キャーッ!蛇神先輩もいるわッ!」



大量の女子に追いかけられている。
元はと言えばアレは犬飼FAN倶楽部なのだ。
彼が毎日毎日毎日お昼どきに追いかけられているのは、もはや周知の事実。
日常のヒトコマでしかない。
…なのに。なのに。



「司馬くんの素顔〜!」



う、わっ!

俺は女子に掴まれそうになったベストの裾を繰り寄せて、全速力で走る。
犬飼FAN倶楽部はもはや解散、そして再び野球部FAN倶楽部となって集結されつつある。
……そう、それは俺達が優雅に昼飯を食べようと集まっていたところに、犬飼が背景を
ひきつれてやってきたのが不幸の始まりなのだ。
それに俺と一緒にいたも巻きこまれた。
ここで普通は女の子であるの事を心配し、男の子である俺が守ってあげるべきなのだが。が。がが。



「わ〜、ちゃんって走るの早いんだねー!」
「……………(コクン)」



は俺よりはるか先、先頭を牛尾先輩と兎丸とで疾走している。(……。)





※図に見る野球部の配置※司馬調べ

牛              
             蛇
          猪     子
〇     犬  虎      猿  馬
    辰
          
地獄











「それにしても、僕達ッ、いつまで走っていなきゃならないんッスかーー?」

「…我はそろそろ昼飯を食べて着替えなければ、体育の時間に間に合わないのだが…」

「仏教先輩はいつも体育着なんてモン来ていないだろーが!」



と、ここで廊下の端まで来てしまったので、牛尾先輩の跡を追って
皆が階段を掛けあがり校舎の三階へと戦闘の場を移す。
それにしても、一階から一気に三階まで掛け上がった事もあるし、さっきから
走りまわっているのでいい加減に疲れてきた…っ。



「も…もう駄目っちゃ…ッ、こ、このままでは野球部はおしまいばい…!」

「あきらめるNa、猪里…!」



ゼイゼイと肩で息をしながら走っている猪里先輩に肩に手を置き、虎鉄先輩は
虎鉄大河(16)の人生史上、最ッ高であろう生き生きとした瞳で訴えた。



「俺達には、があるじゃねぇKa…!」


それに、こっくり頷く猪里先輩。


「そうっちゃね…ついに、ついに、誰かが怨念渦巻く婦女子の大海へと自らを愛する友のために
ギリシャ神話のアンドロメダのごとくその身を投げ打ち我らに脆弱なる太陽の光の下での静寂なる昼食を
もたらさなければならない戦法を使用しなければならない時が来てしまったっちゃね!悲しいばい…!」

「先輩、顔笑ってますよ」


犬飼、無視される。


「そして、女の子の事は腐女子ともいうね!」

「兎丸君!そんな専門用語は使わなくてよろしい!」



猪里先輩の言葉を聞いて先頭を切って走っている牛尾キャプテンは、優雅に顎に手をあてながら
何か考えているようで、しかし、すぐに顔をあげて例の生き生きとした瞳をしながら、犬飼の肩に手を置いた。



「……、そうだ、気をつけてくれたまえ犬飼君」

なっ!?……ます!虎鉄センパイ」

「HAHAHAわかったZe。精一杯応援するからNa、無口BOY!

「……………!?」
俺!?


「沈黙は了解ととる!それでは、皆!アディオスアミーゴシーユーアゲイン!」



部内イジメッ!?



じゃーNa、頑張ってくださいっす!と、皆が俺を振りかえり散ってゆく。
ある人は家庭科室、ある人は音楽室…えっえっ!?
お・俺はどうすれば!?



「司馬!持ち霊でも呼び出して闘え!」



検討を祈る!と最後の猿野が俺の肩を叩いてトイレに逃げ込む。
そ・そんなの漫画の世界だ…!



「……………(じーーっ)」



取り残された俺は、ががいつの間にか隣にいることに気付いた。
そして俺を見つめている。
ご・ごめん、よくわからないけど、俺、を護るから。俺はの手を取った。
少し汗ばんでる。疲れたのかな、ごめん。犬飼のせいだけど、俺が謝っておくね。
小さい手を取ると、オレは一目散に駆け出した。
廊下を曲がり、階段を下り、また廊下を走る。
視界の端に過ぎ行く景色を捉えながら、なんか、駆け落ちみたいだ、と少し胸が飛んだ。
やがて目の前に目指していたドアが表れる。
やや後方に見えるじご…いや、女子を確認しつつ、俺はドアを叩き開けた!



「…………!!??」



中にいた校長先生が、驚きのあまりハンコを押し間違えた。
そして、まもなく、この部屋が女子で一杯になる。







\\\\\\\\\\\\\IN・生徒指導室\\\\\\\\\\\\\\




「司馬!!!!」



ダン!と叩かれた机を見つめながら、俺は確実に食べそこなうであろう弁当の包みを握り締めた。



「お前らは何をやってるんだ!まったく…女子に追いかけられたといって、わざわざ校長室に掛けこむ事は
ないだろう!」



しかし走っている間に、たくあんの汁がこぼれたかもしれないと思うとかなり心配だ。
母さんはこういうのは洗ってくれないので、自分で洗うしかない。…臭そうだ。



「おかげで校長室は書けこんできた女子の騒動でめちゃくちゃだ!片付ける俺らの身にも………って
何をしている」

「……………(はぐはぐ)」



、昼飯を食べる。



「………なぜ、なぜ…お前はそうやって…人を煽るのだ…!」

「………(ふがふが)」

「………(焦っ!)………あ、あの、先生……に決して悪気は……」

「悪気がなくて弁当が食えるのか!?悪気がないと何をしてもいいのかいやよくない反語!」



ああ、どうしよう、先生を怒らせてしまった…!
妄執うずまく先生はの弁当をかっさらい、自分の脇にドン!と置く。



「だいたいお前はこの前のテストの数学が3点だったじゃないか!そんなんで大学に行けるとでも思っているのか!?
センター試験はそんなに甘くないぞ!!しかも数学だけじゃなく英語も社会もほんッとうに駄目で…!
いったい何の教科ならお前は赤点をとらないで済むんだ!?無口か!?無口選手権か!?こうなったら最後の手段で保護者を…」



ふいに。
は何も言わず先生の手に自分の手をやんわりと重ね、驚いた目をむける教師の顔に
真っ直ぐ、しかしやけにつぶらな瞳でそれを返した。

汚い……!汚すぎる……!



「……………!」

「………先生ぇ………(キラキラ)」



キーンコーンカーンコーン



お昼休みの終りを知らせるチャイムが鳴り響く。
昼、食べ損ねた…。
俺はしかたないと溜息を吐いて、立ち上がる。早く帰らないと授業に合わなくなる。
次は、えーーっと、あ、数学か……宿題をしてきてない。いいや、辰羅川にみしてもらおう。
生徒指導室のドアの手を掛けて俺は振りかえった。



「……………!」

「……先生ぇ………(キラキラ)」

「何時までやってるの……」



俺はいつまでも先生の手を握っているを無理矢理引っぺがして、教室をでた。
いくら先生とは言え、男の手をしっかりと握り締めているは見たくはない。
俺は逃げていた時のように後ろ手にを連れながら、顔を見ないよう務めた。



「……………(ため息)」

「…………さ、…先生の手、握る必要なんてあったの?」

「…………(ため息)」

「………聞いてる?」

「……………なんで、もう少し、触らせてくれなかったの……?」



が立ち止まって俺を止まらせた。不満とでも言いたげに視線が後頭部に注がれる。
周囲の音が一気に消え、俺だけ確立された存在になった気分だ。
上履きの底から床の冷たさが伝わってきた。有り得ない。けれど冷たかった。
俺はせり上がる生唾を飲みこむ。



「…………好きなの?」

「…………………うん。今まで言った事なかったけど、最近。」

「年上好きだったなんて、知らなかった………しかも、妻子持ちなんだよ…?」

「……!知らなかったわ……でも、そんなもの関係ないって思う………」



それは、そうなんだけど。
俺だって、がどんなに無口でもがめつくても幼なじみでなくても
好きなんだけれども。
これは



「………ごめん。先に教室行く」



酷すぎる。







\\\\\\\\\\\\\IN・放課後のグラウンド\\\\\\\\\\\\\\





あれから、授業は全然手につかなかった。
つけと言われても絶対無理だ。無理。
頭の中で俺は一体何年を見ていて、何年一緒に過ごしていたのかと、後悔もした。
幼なじみなのに何も知らなかった。
まさか。
まさか超・絶・年上好きの、そのうえ人妻ならぬ人夫好きだったなんて、全然知らなかった…
だから今まで誰一人として告白を受け付けなかったなんて…納得といえば納得だけど、
嫌な納得だよ。


授業を終えて俺はとはたいして会話もなく、部活に直行した。
(と言っても、どうせ会話などいつもないのだが)
は、いつもの通り俺についてきた。部活終了の時刻まで部活見学して俺を待っていてくれるのだ。
いつもなら喜ばしいことなのだが、今日は、全然嬉しくない。



「よお、司馬ー生きてたかー!」



着替えてグラウンドに足をつけると、近くに立っていた猿野がポンポンと肩を叩いてきた。
生きてはいますが、人生的に死んでいます。
とりあえずコクンと頷くと、猿野はそーかそーか恨むなら犬を呪え!呪い殺せ!と騒いだ。
呪いで人は殺せるのだろうか……。(少し本気)
猫湖に相談しようかと軽く悩んでいると、ふいに薔薇の香がした。牛尾先輩だ。



「司馬君、そして君、さっきはすまなかったね…」



妙に悩ましげに眉根を寄せる。



「決して君達を裏切った訳ではないんだ。信じてくれるかい…?」


一歩近づいてと俺の手をとった牛尾先輩の不自然なまでに白い歯が、燦然と輝く太陽の光を反射して俺達を眩しく照す。
ま・まぶしい・・・・・・!!
あまりの眩しさに俺は眼を手で覆ったが、は開いた教科書に虫が挟まって潰れていたのを
見てしまったかのような表情を浮かべただけで、



「この世で信じられるのは札束の重さだけです……」



と返した。(さつたばのおもさ…?)



「はっはっは。相も変わらず君のギャグは面白いね。そのセンスは閉じこめられた薔薇の奇蹟に価するよ」

「……」

「いや、水面下でバタつく白鳥の足のヒレのごとく冴えているといっても良い……」

「…………ふふふ、誉めすぎですよ………」



うふふふ・あはははと二人は親密な空気をかもし出していたが、その分、
回りの人との信頼は儚くも散ったのは疑いのない事実だと思う。



「牛尾……そろそろこっちへ戻ってこないと練習が始まらないのだ」

「ははは。失礼だなぁ僕はいつでもあっちの住人だよ」

「余計に悪いのだっ!」



呆れ顔というか諦め顔というか、とりあえず悪辣なものを見るような顔で、牛尾先輩の背中にバシン!
とツッコミを入れる。
それにお返しとばかり、牛尾先輩は爽やか笑顔で鹿目先輩のマフラーの端と端を手に取り外側へ引っ張った。
うーーん。なかなか熾烈な戦いだ。鹿目先輩は何時まで耐えられるのだろうか。(たぶんあと3秒)
それにしても



「なんかさ、って明かに牛尾先輩への態度が他の人と違うんだけれども……」



普段は喋ることだってままならないのに、牛尾先輩の前だと、殊更に笑ったりするんだ。
企み笑いや含み笑いだったりするのだが。



「……………あのね、牛尾先輩って、金粉の匂いがするの……」

「…………好きなの?」

「割と………」



うっとりとしたの眼はすでに牛尾先輩の十字架へと飛んでいた。
たしかに先輩はブルジョワっぽいし、あの十字架もきっと純金なんだと思う。とても重そうだ。
何かの目的で首を鍛えているのではないかと疑いたい。



「……と、いえば君。何やらさっきのイザコザでついでに先生に怒られたそうじゃないか。
成績の如何せんで」



どうかしたのだろうか。鹿目先輩の口が半開きになっている。そんな先輩を抱きかかえて牛尾先輩が急に振りかえった。



「なんてったって、3点ですからね……」



辰羅川がげんなりとして、呟く。



「それは困ったことになったね……そうだ、今度僕の家で勉強でもしないかい?
自慢だが勉強はできるんだ。野球もだけど」

「…………………(ぴくり)」



牛尾先輩=金の十字架=金持ち=家がデカイ=きっと棚に高価なものが飾ってある=欲しい=貰う
と、いう「方金持ちになる程式」が組みたてられたことに一縷の疑いもない。
の眼が光っていた。
それは、もう、とてつもなく。












俺は、なんでの隣にいれるんだろう。    と、気持ち悪くなった。

幼なじみだからなのだろうか。
無口だからだろうか。
先生の様に好かれているわけでもなく、
牛尾先輩のように金粉の香りがするわけでもなく、
幼なじみの司馬葵だからだろうか、
金の匂いのしない俺が側にいられるのは、

ああ、そうだね

幼なじみだからだ。











「……………私、先輩の家にい

「うわーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」








俺は、の手を掴んで走り出しました。








手から伝わる重力を一生懸命引っ張っているうちに、何時の間にかそれもなくなり、
変わりに控えめな足音が俺の後をついてくるようになった。
グラウンドに響いた俺の声が聞こえなくなると、同時にグラウンドにざわめく人の声も聞こえなくなり、
瞬間に今度は息漏れの音しか耳に届かなくなった。
何処に行くの? とは、聞かれなかった。言われても聞こえなかった。
ただ俺の中で螺旋状に「何をするつもりだろう」という文字がうねっているにすぎない。
とにかく、そんな感じで俺は走った。
風をきるように。











「………………



たぶん、またじょじょに重力を増した手に向かって、呟いた。
軽く握りなおした手はたぶん返事なのだと思う。



「俺、の事好きだ」



離されそうになった手を更にきつく掴んだ。



「好きなんだ」



絶対に離したくない。
きつく握ったあの掌は思いのほか小さくて、一周以上でも俺の指が絡められた。
ぎゅうぅ、と握っているうちに、血液の移動さえ感じた。暖かい。

俺は、振りかえった。
そして、止まった。



「………………………」



疲れた。
特には俺より運動なんてしている筈がなく、傍らで大きく肩で息をしている。
俺も急に走りすぎで耳が痛い。脳みそがぐるぐるして酸素が足りないようだ。
それでも、俺は喋り続ける事に決めた。



「……でも、が先生の事好きなのは、知ってるからさ、俺、…協力するよ。
俺、の幼なじみだからさ。」



「…………私、先生よりは、金が好き」

「うん、そうだろうねそうだ…………………………そうなの?」



はコクンと、頷いた。
と言う事は、俺は金以下でもあるのか。なんて相関図だ。



「……………愛より金なんだ」

「愛………………?」

「………………ほら、先生」



は了承したようにポン、と手を叩いて可愛く笑った。
とても嬉しそうに。



「うん、私………・・頑張る。ピカチュウが年上で妻子持ちだったなんて知らなかったけど、
でも、好きな事には変わりはないの。可愛い」



何故ここで電気ネズミの話になるのかさっぱりわからなかった。



「…………私ね、何時か、先生のポケモン時計、貰ってみせるから……………
そしたら、葵ちゃんに秘密で見せてあげる」



「ピカチュウの………時計?」



思いもよらぬ展開なのです。



「…………最近好きって、ピカチュウが……?」

「…………(コクン)……あの黄色い色といい、丸いフォルムといい、とても……金運がよくなりそうでしょ、南に置くと」



ジェスチャーでまん丸を描いた手を見て、少し安心した。
楽しそうにお金について語るは、何時ものだと思う。
ただ黙っての金運上昇の話に耳を傾けていると、この季節にしては良い風が頬を撫でた。
……思い出したが、俺の一世一代の告白はあっさり忘れられている気がする。(いや、忘れられている)
でも、 それでもいいや。
どうせ、→先生 説は間違っていたんだし。
それに幼なじみの関係だけでも、こんな金の亡者話をしてくれるのは俺だけなんだから。
誰に対してなのか優越感を胸に一杯ためつつ、がいかに黄色という色がすばらしいか
説き伏せてくれている間、俺は、じっとサングラス越しに見つめていた。



「で…ね、風水的に……………って、聞いてる……?……」

「………は、俺にはそういうこと言ってくれるよね」

「……………そんなの」



彼女は俺の顔を見上げ、さもあたりまえのように言い放ってくれた。



「葵ちゃんのこと信じてるからに決まってるし……………」






信 じ て い る の は 札 束 の 重 さ だ け。






……やってしまった。



だってが、札束よりも俺の事信じてくれているなんて、信じているんだよね?それって自惚れていいんだよね?
ね、      …ね?
ああごめんね、違うって言っても、もう遅いけど。


俺は予想と少し違った柔らかい唇を、予想とは違う長い時間押しつけた。


離した瞬間に、はぁ、という温い声が吐き出される。
絡みあう睫毛。髪の区別がつかない距離。
その距離を利用して俺はの黒い瞳を覗き込きこんだ。



「………君のハートをゲットだぜ?」



うん、たしかこういう台詞。



「………………」



急に俯いたは視線を足元に設置して、それから俺のブラウスを勢い良く引っ張った。



「…………葵ちゃん…………私まだ葵ちゃんのこと好きとか嫌いだとかさっきの告白に全然答えを言っていっていないのに突然唇を押しつけるだなんてちょっと失礼すぎるんじゃないのむしろ常識として少し考えてもらいたいわもし私が葵ちゃんのこと好きじゃなかったらいったいどうするのだいだい幼なじみだからって必ずしも貴方のこと好きだとは限らないのよそれに私の唇には



「昔昔のドイツの皇様ルートヴィヒ二世が莫大な保険をかけているのよかのクレオパトラの唇と形がそっくりでかの小野小町と厚さが同じくらいでかの楊貴妃と上唇の右端から同じDNAが検出されたとつんくが言っていたわいったいいくら損害賠しょ



「……………………何」

「好き」

「………………………………私、も」



相も変わらずは俯むいているだけだったが、心なしにブラウスを引っ張る手の力は緩まった気がする。
俺はその手をとって手を繋いだ。
とりあえず、今日はもう部活には出れない。ので、恋人のと手を繋いで帰ろうと思う。
手を引いて歩き出した俺に、は何時もの様に黙ってついてきてくれた。



「………そういえば、なんでは無口なの?」



お金が好きな理由なんて、一生治らないのでもうどーでもいいのだが、
何故が俺と同様無口なのかは聞いてみたい。
横でちまちまと歩いているのを止めて、は前回と同様さも当たり前のように言い放った。



「…………沈黙は金=cって、いうでしょ」










…がめつい。

















******************************
羽山葵さんとの相互リンク記念に押しつけたものであります!
一生で一番…を打ちました(笑) ちなみに牛尾はヒロイン好きではないですよ〜ただの親切な人なのです。…変人?
オチが無理矢理っぽくというかぽくじゃありませんね無理矢理ですみませんー!(汗)
葵さん相互してくださってありがとうございますvそしてどうぞこれからもよろしくおねがいしますv