●報道部からこんにちわ●







   「きゃー!司馬君喋って歌って踊ってーー!!【愛】」
   「兎丸君今日もブラックな笑顔がカワイー!!【萌】
   「虎鉄君〜もっと猪里君と絡んで〜!!【妄】
   「よっ牛尾君の女泣かし!【常】」
   「あっ犬飼君〜!はぐれ刑事純情派見た〜?【問】」
   「猿野君〜!つまらないギャグはテープの無駄だから控えてね!【厳】」

   梅星先輩の怒涛のフラッシュが、次々とグラウンドの野球少年達を静画にさせていく。 
   それは留まる勢いを見せず、シャッターの音がノックの音を越えて響くほどだ。
   今日は週に1回の報道部による野球部取材の日。
   特別な試合の日でなければこうして週に一回、牛尾先輩の許可を得て取材している。
   今年の野球部はけっこうな粒ぞろい(美形ってことね!)で、校内新聞も野球部の記事は毎号連載の
   ショートコーナーまでついているのだ。
   (ちなみに今、最も旬で一番人気なのは「今週の隠し撮りコーナー」。
   毎週野球部員の誰かのオフショットを載せるコーナーで、例えば先週は兎丸君の寝顔であったり、
   先々週は蛇神先輩が滅多に外さない、頭に付けているあの校則違反だとか誰も指摘しない仕入れ先が
   まったくもって不可解なものが体育の時にすっぱぬけて焦っているところとか)

   梅星先輩が取材をしているところを見るのはとても楽しい。
   虎鉄先輩みたいにノってくれる(あ、腰に手を回したら猪里先輩に殴られた)人もいれば
   司馬君みたいに急いで隅っこのほうに逃げてしまう人もいる。(かわいい…!!)

   私は仮入部で入ってみてそのまま梅星先輩に押しきられてそのまま入部したクチ。
   特に入りたい部活もなかったし、それに今ではこの報道部に席を置いていてとてもよかったと
   思っている。

   だって。

   「あ〜!ちゃん!!フイルム持ってきて〜【困】
   それと沢松君が帰って来たら一緒に1年の取材ヨロシク〜【頼】」

   「ハイ!」

   私はフイルムを渡してから、いそいそと取材用のレコーダーを取り出す。
   昔のタイプなので重量感があり操作も色々と大変なシロモノ。
   (私より後から入った沢松のほうが詳しいのだ;何故か)
   経費で買い変えようとしているのだけれど、いかんせん、梅星先輩の写真代&フイルム代が
   並々ならぬ(これ、重要)金額にふくれあがあるので、そうもいかないらしい。
   いつも会計係りを担当している先輩が常に注意しているのだけど、梅星先輩はまったくもって
   聞いていない模様。
   まぁそんな訳で私はいつも沢松君とペアを組んで取材をしているのだ。


   「お〜わりーわりー」

   「沢〜遅いよー!っていうか水飛ばさないでよ。汚いなぁ」

   トイレからやっと帰って来た沢松が手を振りまくっているせいで、私にも水が飛ぶ。

   「あ〜ん?おまいサンは何時からこの沢松様にそのような言葉使いができるようになったんだ?
   この万年テープレコーダー使い不能女め!」

   「なっなんだと!万年女にもてない男!」

   「うるせえ!この不純な動機で報道部に在籍しているナオンめ!」

   「ほっほっほっそっちこそホントは猿野が心配で心配でたまらないクセに!!

   さぁ〜るの〜〜!!ほんとはこいつ

   「うわっバカ!!

   沢松が慌てて後ろから私の口を塞ぐ。
   梅星先輩に頼んで野球部の取材は絶対に入れてもらっているのだって知ってるんだから!
   も〜沢松ったら猿野の保護者みたいなんだよね。
   中学時代から奴の見事なまでのふられざまを見ているから、鳥居さんとの恋を実らせてあげたいんだってさ。

   「あ〜?なんだ呼んだか?」

   「おお猿野!よくぞまいられた!実は」

   「わーーっバカ!!やめろ!!!」

   「実は沢松がすっごーーーーーく」


  「わーわーわーわーわーわーわー!!!!!!!」

   さらに私の口を塞ごうとする沢松の手をしゃがんで逃れると、私はとととっと駆け寄って猿野の肩に手を
   回した。そしてすごく楽しそうに笑って見せる。

   「猿野のインタビューがしたいってさぁ〜!」

   「ん?そーかそーか!はっはっはっワキ役もよ〜やく俺の主役っぷりに気ずいたかー!!!」

   「て…てめぇ〜!!騙したなー!!!」

   「あっはっは!」

   私と猿野と沢松は同じクラス。
   たまたま席が近い事が縁で仲良くなった。いつもこうして誰かをからかって、からかわれて遊んでいる。
   まあ、放課後も猿野達と遊ぶ事が出来るので報道部にいる、っているのも理由の一つでもある。
   一緒に帰れるしね。
   (あ、でも当然部活の邪魔になるような事はしないわよ!規定時間外の取材はしません。)
   そうこうしているうちに、部室からまた一人ジャージに着替えた部員が出てくる。
   けっして高くないけど、それでも私よりは高い身長。
   額の青いストライプのヘアバンドが、彼の存在を鮮やかに示してくれる。
   子津忠之介。


   「あっ子津君!うっす〜!今日は初めて会ったよね」

   「そうですね。今日も取材おつかれさまです」


   子津君は軽く会釈すると、もう視線と足はグラウンドに向かってしまって私はただ黙って後ろ姿を見送る。
   彼の姿がだんだんと小さくなって練習している部員の波に飲みこまれてから、やっと視線を外した。
ーーーーーーーーーーー脱力。

   「おうおう恋するトップレディ?」

   猿野がしゃがみこんだ私の頭に手を置いて、ぐりぐりと左右に掻き回す。
   取材にくる前に部室で入念にチェックした髪だったが今はもう用をなさない。
   むしろ猿野がかわりにぶちこわしてくれた方が嬉しい。

   「あーーーヘコムーーーー」

   「お前ってホント本命は駄目な。っていうか今日初めて会ったワケ?」

   「私はいっぱい見たりすれ違ったりしてるけど、子津君が気ずいたのは今が初めてなのーー」

   「だーら、俺達と屋上でメシ食おうって言ってるじゃん。司馬とスバガキも一緒だけどよ」

   「そんなの行けないよー…私友達と一緒に食べてるしさーイキナリ行ったらめちゃ怪しいじゃん?」

   あーーーーー最悪ーーーーーーー。
   横から垂れた髪が重力にしたがって地面とコンニチワをする。
   私ってば本当に駄目だ。
   廊下ですれ違っても子津と視線が合わないと「おはよう」も言えないし、クラスが違うから休み時間にだって
   猿野の用事がある時に付いていかないと喋れないし、弁当だって一緒に誘ってくれるけどさ、
   友達も行ってこいって言ってくれるけど、なーんにも意味がないのについて行ったら怪しいじゃん!!!
   モロ怪しいじゃん!!
   司馬君と兎丸君は私が子津のこと好きだって知らないしさ、(言うつもりもないけど)
   こう、ナチュラルに仲良くなっていきたいじゃん!?

   「こうしてははナチュラルにこだわりすぎて数多のチャンスを逃していくのでした…*FIN*」

   「沢…勝手にナレーターすな…」

   っていうかお前パンツ見えるぞ、と沢松がスカートを下にひっぱってくれる。
   「も〜パンツ見えてもいいからなんかチャンスがほしい。
   欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい」

   「…………………なんかお前が"欲しい"って連発するから干し芋食べたくなった」

   「あー俺も。って言うか焼き芋がいい。今野球部の帰り寒みーんだよ」

   夕方でもケッコー冷えこむし。
   猿野が手と手を擦り合せた。はぁ、と手を暖めた息が白く狼煙を上げて薄青い空の雲になる。
   なんとなく視線を落すと、指先に血が集まってじんわり赤くなっていて、これから部活をする猿野が
   可哀相になった。
   私は、それまでセーターのポケットにつっこみっぱなしだった温もった手を貸してあげた。
   猿野はあったけー、女神様〜とまたいつもの調子で崇めて、沢松が、じゃあ俺も崇めて貰おうか〜!
   と手を重ねようとすると、素早くよけて キサマの温かさなど、買ったばかりの靴下の先についてくる銀の
   留め金よりいらんわ! とまた訳のわからない事を言った。
   いつもの調子で。
   私が笑ってたしかにいらねー!!とはやし立ててると、沢松は急に落ちこんだみたいで どーせ俺は…
   なんていじけだした。

   「あの、猿野君」

   急に後ろから掛けられた声になぜか私の方が驚いた。
   降りかえったら子津君がなんか気まずそうに立っていたから。

   「もうすぐ部活はじまるっすよ」

   そう言ってまた少し身じろぎした。目線が少し猿野の方でなく沢松の方を見ている気がした。
   でも気がしただけで、すぐにまた今度は視線を下に落した。
   あーーー…・子津君かっこいい……………(悦)(←あ、梅星先輩のクセが!)

   「あ、んじゃ俺部活行ってくるわ」

   「そう?まぁ頑張ってね〜」

   猿野の手を離すと、冷えた外気が手を包もうとしたので急いでポケットにしまいこんだ。
   おお、寒い。
   今、あんなに喋るチャンスが欲しいって繰り返し言ってた子津君が目の前に居たのに、陽気にかわいらしく
   子津君も頑張ってね!って言えない自分が寒い。寒い。寒い。
   寒いので私はグラウンドに向かう猿野に向かって叫んだ。

   「帰りに焼き芋おごってね!5時に校門で沢松とまってっから!」

   さっき手ぇ繋いであげた賃だから!

   後ろでブーイング三昧の猿野をバックに、私は沢松と目を合わせてたっぷり10秒間見詰つめ合った。
   なんてロマンスなのかしら。
   見つめあったら沢松だけに言いたい事が浮かんできたの。
   そして沢松も私ときっと私と同じきもちに違いないわ。
   せーーーーのっ









   「「インタビューしてねーーーーーーーーーー!!!」」
 (その後梅星先輩に絞られました。)

>>>nent>>>