結局梅星先輩に取材をしていないことがばれて、私と沢松は明後日までに来週の1年特集のレポートを
   提出することになってしまった。
   うう…。規定外活動だわ…。
   沢松におしつけよう。


   まぁそれはさて置いて、私達は野球部の帰りを見計らって校門の辺りで焼き芋大臣(猿野)の帰りを待っていた。
   校門がやや西向きに設置されている十二支からは、夕日がしとやかに傾きだしているのが一望できる。
   紫のマントを羽織った夜が下から手を伸ばしていて、少し冬にしては痛痒い風から肌を守るように私は
   首元のマフラーをしっかりかき寄せた。
   赤を基調とした空ははやる気持ちを急き立てる。
   ああ、なんて

   「あーあの色見てみ、芋色だ」

   「100%女のものとは思えないセリフだな」

   あの空は芋を想像させるのかしら。
   紫と赤と黄色はどうみたって芋だ。芋色だ。
   なんて情緒がない女だ!!と大袈裟に身をふりまわし嘆いている沢松も、なんだかんだ言ってお腹が盛大に 
   太鼓をならしいているのであって、結局芋色を想像しているに違いなかった。
   校門の人影もまばらになった頃、あのグラウンドにはヤケに厳しいキャプテンからやっと解放された一団が
   丸まって帰って来た。

   「おーー焼き芋大臣ーー待ちくたびれたぞー」

   ピンと挙手をする私と沢松を見て、子津君の隣で今日の練習についてお喋りしていた猿野は
   顔を歪めて非難の色をしめす。

   「げっ本気で待ってやがった!」

   「あんたおごってくれるっていったし」

   「言ってねー!」

   「えっヤキイモ?僕も食べる〜!」

   「おお!兎丸焼き芋少佐も食べたいか!」

   ぴょん!と飛出した兎丸君は嬉しそうに私の手を握る。

   「司馬君は?……・うん、うんそうだよね!ちゃん、司馬君も食べたいって!」

   「んじゃ司馬君は焼き芋中尉!あ、犬飼君と辰羅川君はどうする?一緒に焼き芋食べてく?」

   少し遅れてやってきた二人は突然声を掛けられてびっくりしてたみたいだ。
   でもすぐに用があるから、って行ってしまった。
   他も部員に声を掛けようとすると、兎丸君が私の手をひっぱって帰り道へと急がせた。
   彼の我慢は限界突破をしたらしい(かわいいなぁ)。
   ぐいぐいとひいっぱられる中で、視界の隅に子津君が映って、目を細めた彼と一瞬目があった。
   コレはチャンス!だと思って急いで声を掛けたから心持上擦ったかもしれない。

   「子津君も食べるよね!一緒に!」

   そう言って私は咄嗟に子津君の手をとってしまった。
   あああああああああああああっ!大胆っ!大胆だ!!はずい!!はずすぎる!!
   一緒になって兎丸君にひっぱられながら、ずり落ちたヘアバンを空いた手で押し上げる子津君は
   ちょっと口元を歪めて笑った。
   これじゃあ帰れませんしね、と笑みで言ったみたいで、私は強引だったけどあの瞬間の自分に
   感謝しまくった。
   子津君の手は生温くて、見た目よりもごつごつしてて、土の粒が纏わりついていて、すごくすごく、すごく
   男の子だった。
   私は亀のようにマフラーから顔を伸ばして頬をさらして、夕日に紛れて誤魔化して、それでも駄目そうだから

   「芋は食いたいかーー!!」

   と叫んで、2人をひっぱっていった。













   私達は学校帰りでいつも営業しているおっちゃんから焼き芋を買い、近くの公園で食べることにした。
   いつもは子供で賑わう公園も、街灯が静かに存在を主張するこの時間帯はひとっこ一人いないようだった。
   私達はベンチに思い思いに腰掛け、芋を頬ばる。
   はふはふと内を焦がす熱が心地よい。

   「おいしいっすね」

   「……はぁふー(うん)」

   沢松のナイスな取り計らいのおかげで私は子津君の隣をゲットできた。(あーーん!嬉しい…!)
   子津君の隣は司馬君で、司馬君は隣のベンチの兎丸君と一方通行会話中なので目下のところ
   二人でお喋りできるのだ。
   何を喋ろうか考えすぎて、主に話題をふってくれるのは子津君なんだけど。

   「あ、そういえばさんは結局インタビュー終わったんですか?」

   「あ…ううん、猿野のバカと喋ってたから全然進まなくてね、結局明後日までにレポート提出しなくちゃ
   いけなくなってサ」

   「大変っすね報道部も。毎週新聞やら何やら作成しなきゃいけないですし」

   「そうなのよー…あ、でも子津君も毎日練習頑張ってるよね!見てるよ〜」

   「あ、…ありがとうございます」

   「猿野の側にいるから大変でしょ?もうアイツの面倒なんて見なくていいから!」

   猿野は朝練も放課後も子津君と一緒に居ることがやたらと多い。
   毎回バカやって犬飼君と絡んでは柔軟を中断したり、その度に子津君が止めに走ったり、マジで子津君の
   邪魔しないでよね!

   「………あの、子津君?」

   急に黙った子津君は、とてもゆっくりとした動作で焼き芋をかじった。
   やることがなくて、私もマネをしてかじってみた。
   また一口かじり、かじり、かじり、小さかった焼き芋はついにアルミニウムのカケラと変貌した。
   くしゃくしゃと丸められたアルミは最後にぎゅっ、と握られて向かいのゴミ箱にストライク。

   「………まあ、猿野君の面倒みるのは、いつものことですから」

   ゴミ箱に視線がかたむいたまま、言った。

   「あ、うん。まぁ友達子津君しかいないみたいだから、猿野のこと見捨てないでやってね」

   「はは、そんなことないですけど、まかされたっす」

   また微妙に沈黙が香った。
   ……ああっちくしょう!向こう側で騒いでるアイツらが激しく憎い!!
   沢松なんか…沢松・…あ、そうだ。

   「あっあのね子津君。
   もしよかったらだけど、…報道部の取材、子津君にしてもいいかな?」

   子津君に向き直ってそう切り出すと、びっくりしたように僕に?と聞き返した。

   「でも僕は犬飼君みたいに特別すごいわけじゃないしですし、かっこいいわけじゃないですし、それに

   「いいのいいの!!私がしたいんだから!」

   ね、いいでしょ?
   と少しかわいこぶって小首をかしげてみた。(女の子ですしね!!)
   子津君は心もち眉根を寄せてうなっていたけど、お願い!とさらに頼みこんだら、はにかんで
   僕でいいなら…と引きうけてくれた。

   「あ、じゃ、場所と時間はどうする?」

   「明日の午後練が終わった後でいいっすか?場所は、うーん…じゃあ、さんの教室で」

   「わかった。じゃあ私もそっちが終わるぐらいに待ってるから」

   よっしゃーーーーーーーー!!!!!!!
   あっ明日も一緒に帰れるわ!二人で!二人!!
   も、も、も、も、もう今から楽しみだっ。
   私がありがとう!とニッコリ笑うと、どういたしまして、と笑い返してくれた。・…きゃあっ。
   それから兎丸君が話しかけてきて、ああ、でももう何を話たか忘れてしまった。
   明日の放課後のことで頭がいっぱいで。
   ヴィヴィアンの靴下洗ってあったっけとか、ランコムのマスカラを付けていこうとか、爪を磨いていこうだとか。
   とにかく色々。

   夜風が本格的に厳しくなってきた頃、兎丸君が見たい番組があるから帰る〜、の言葉で
   おひらきになることになった。
   兎丸君、子津君は地元だし沢松と猿野はこれからまだどっかに寄っていくらしい。
   と、言うわけで電車通の私と司馬君は一緒に駅まで帰ることになった。

   「じゃ、また明日!」

   「ばいばい〜ちゃん司馬君」

   「…………………(コクン)」

   兎丸君と別れて私達は公園を後にした。(兎丸君はすぐ見えなくなった)
   それから10分ほど歩いてから土手の辺りで猿野達と別れる。

   「んじゃな。また朝練で」

   「…………………(コクン)」

   「じゃあね、子津君」

   「うす。また明日っす」

   ちょっとばかりさっきの子津君の態度に閉口するところはあったけど、でも明日の事を考えていた私は
   たいして気にならなかった。
   司馬君と数10メートルぐらい歩くと一目をはばからないデカイ声で沢松が叫んだ。

   「襲うなよーーーー」

   アラっ私も一応乙女のはしくれ!心配してくれるのね!優しいところあるじゃないの!!

   「……・・・・・・…司馬を」

   「あたしかいっ」












   結局帰り道、司馬君は一言も喋ってくれなくて、私は襲いかかってでも喋らせたい気分になりました。




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