見ていることしか出来なかった。
私なんかじゃ手も届かない、そんな人だと思った。
初恋は実らないって言うし?
テニスはうまいし、かっこいいし、頭はいいし。
なんか恋は始まったばかりなのに考えは全部悪い方。
私はまずどうすればいいんだろう…。






Distance












【キーンコーンカーンコーン】

授業終了のチャイムが鳴る。
今日で1学期の授業は終わり。
明日の終業式で全校生徒が待ちに待った夏休みが始まる。
例外なんてない。
もちろんもその内の一人だった。

「夏休み、どっか行く?」

「え?さ、さぁ?」

友達に聞かれて、はそんな曖昧な返事をした。
特にこれといった予定もない。
部活に入っているわけでもなかった。

「夏休みなんだし、遊びなよ〜。」

「遊ぶよ。ただ、まだ予定が入ってないだけ。どっか行くの? 」

「旅行かな。親と一緒に。」

「おみやげよろしくね。」

そんなことを話していたの後ろに誰かの気配を感じた。
振り返る前に声がして、誰だか一瞬にして認識する。

「夏休み予定ないんですか?さん。」

「お、鳳君!?…まだないけど、どして…?」

意味がわからない。
は困惑していた。
そりゃあいきなり男子に『夏休み予定ないんですか?』なんて 聞かれれば誰だって驚く。
ましてや、それがあの鳳長太郎じゃ…。

「あ、いきなりすいません。実はですね、テニス部の合宿があ るんですがうちの部、マネージャーがいないんですよ。予定な いなら、さんやってくれませんか?期間限定マネージャー。 」

突然の申し出だった。
が嫌がる理由もない。
ここ、氷帝学園男子テニス部といえば有名だし、レギュラー陣 はファンクラブもあるほど人気だ。
それにしても、なぜに声をかけたのか自身わからなかった。

「どうして、私なの?」

「予定がないって言ってたからですけど?それにさんなら一生懸命やってくれそうだったから。」

簡単に納得できるような理由ではなかったけど、は引き受けることにした。
特に予定もなかった夏休みが楽しくなるような気がしてならな かった。
他の子に恨まれてもいいと思う。



でもちょっと、考えが甘かったかもしれない…。





!ぼけっとしてんな!」

テニス部部長、跡部景吾の怒鳴り声。
一週間の合宿2日目にして、もう慣れた感じ。
マネージャーの仕事は予想以上にハードだ。

「はーい、今行きます!」

は一日中走り回っていた。
それに加えて部員の食事作り。
いくらレギュラーと準レギュラーしかいないとはいえ、育ち盛 りの男子の食べる量は並じゃない。



「なんか声かけちゃって悪かったですね。」

「鳳君。今日の食事作り手伝いは鳳君なの?」

「はい、まさか先輩達にやらせるわけにはいきませんよ。」

そうだね、とは笑った。
あの人達がやるとも思えないが(笑)
はリズムよく、包丁で材料を切っていく。
その様子を鳳が横で見つめていた。

さんは、いいお嫁さんになれそうだね。」

「こ、これぐらい大したことないよ。」

「そうでもないんちゃう?」

今度は独特の関西弁が聞こえた。
もちろん一人しかいない。

「忍足先輩。」

「今までのマネージャーはそらひどいもんやったで。ミーハー なんばっかでな、仕事にならんかったわ。」

それがテニス部にマネージャーがいない理由。
レギュラーに憧れて入ってくるのはろくなもんじゃなかった。
跡部の厳しさに、誰一人として続かない。

「臨時なんて言わんで、ずっとやったらええのに。やったら跡部も文句言わんとちゃう?」

「忍足先輩、だめですよ。今回だって、俺が無理いってやって もらってるんですから。」

そう言われて、助かったような悲しかったような。
確かに鳳との距離は前より縮まった。
でも、それは見た目だけの距離であって、心の距離ではない。
やっぱり、クラスメートでそれ以上の何でもなくて。

「そうなん?。」

「どうでしょう?」

これが精一杯の返事だった。
やりたい!というのも、厚かましい。
だからといって、やりたくないというのは本音ではない。

「ま、気が向いたらやってぇな。」

それだけ言うと忍足は調理場を出て行った。
忍足のいなくなった調理場はなんだか空気が重たい。
鳳は何も言わないし、も何も言えない。
それでも、包丁を動かす手を止めることはなかった。

「・・・っつ・・。」

「大丈夫?!」

「へーきへーき、アホだよね、私。・・・ちょ!鳳く・・・。 」

ちょっと油断した隙に切ってしまった指。
血が流れる。
そう思った瞬間には、鳳に手をとられていた。

「なめとけば治るよ。」

「き、汚いよ!」

「汚くないよ。ね?」

この顔は反則だと思う。
不意をつかれて、そんな優しい顔をされたんじゃ何も言えない 。

「俺が夕飯の準備してるから、手当てしてきなよ。さすがにこ れだけじゃ、ね。」

「う、うん。」

はもう、動揺しまくり。
心臓が壊れそうだ。
鳳の真意はわからない。
でも、こんなことをされて期待しない人はいない。
のドキドキはいつまでたってもおさまらなかった。






合宿最終日、跡部は部員に休暇を与えた。
昼間はみんなそれぞれのことをし、夜は花火をすることになっ た。
合宿所の前でみんなが騒いでいる。
手持ち花火をしたり、噴出し花火をしたり。
お約束のように誰かに向けて、跡部に怒られたり。
もちろん、それにはも加わっていた。

「楽しんでる?」

「鳳君。楽しんでるよ。」

「そ、よかった。...横、座っていいかな?」

「どうぞ?」

地面に座って、みんなのやりとりを見ていたの横に鳳が座る。
そういえば、アノ日からあまり会話もしていない。

「お疲れ様。」

「え?」

「俺のわがままだったのに、きちんとやってくれて嬉しかった 。」

笑顔でそう言われて、はドキドキした。
愛想笑いとは違う。
鳳のホントの笑顔。

「楽しかったよ。鳳君に誘われなかったら、体験できなかった ことだしね。ありがと。」

「俺のセリフなのに取られちゃったなぁ。」

「あはは。」

「・・・俺がさんに声かけた理由、他にもあるんだ・・・。」

いきなり話し出したかと思うと、突然視界が暗くなる。
でもそれは違って、気がつけば目の前に鳳の顔。
そして一瞬だけ口唇が触れた。

「・・・。」

さん?・・・ごめん。」

「・・・びっくりした・・・。」

「え?」

放心状態のから出たのはその一言。
鳳も拍子抜け。

「これって、どういう意味?」

「・・・好き、ってこと・・・。」

予想外に慌てていないれに、鳳が赤くなった。
そして、つられたように、次の瞬間も赤くなる。

「鳳君って、実は積極的だったんだ・・・。」

「だから、ごめんって。・・・返事は?」

「私もずっと・・・好きだったのよ。」

みんなに見えないように、二人は後ろで手をつないだ。
とりあえずは、まだみんなに内緒で・・・。





夏のはじめに急接近を果たし、夏が終わる頃には二人の距離は ほとんどなくなっていた。
あとは時間が解決してくれるはず。















END




















レイナ嬢へ捧げるチョタ夢です。
時期的に誕生日プレゼントのようになってしまいましたが。
こんなもんでホントにスミマセンです(平謝り
むしろ土下座の勢いで。
跡部夢楽しみに待ってます(え?



2003.9.2 未星ケイ



いやいやいやいやいやいやいやいや!!!
誕生日プレゼントとして最高ですよ!!大興奮ですよ!!!
よろこんで跡部にしかられながら長太郎を料理しますよ!(←ん?)
ほんとうにありがとう!「長太郎で!!」ってリクしたときから戸惑いながらも
描いてくれて感謝しております。。
えーーー…べー夢、がんばります。夏はもう終わるのにお祭りネタです。すみません(笑)

2003.9.2 世界レイナ