「千石は、すごい明るい奴で、アイツが居るとホント、どんな時でも頑張れたっていうか、
なんだって上手くいく気がして…・・・
そ それにテニスがとても大好きで、Jr大会に選ばれる ぐらいの 腕前 で…
・・ …すみま せん。 …え、えと、とにかく、ラッキー千石って呼ばれるぐらいの、
強運の持ち 主 で・・・ 持ち主だったのに… せ・・・千ご・・・ ど・ どうし・・・ て っ」
ガタタッ
キーーーーーーン、と、マイクが倒れ、耳を掠め切る音がした。
何人かの白ランが、壇上にしゃがみこんだ南を抱え起こしに駆け寄る。
東方、室町、太一。
どれもラケットの向こう側で見知った顔だ。
皆、南の背中を優しくさすりながら、そして時々自分達も負けじおとらじ死にそうな顔を貼りつかせながら
「すみません、すみません、」と、人並みを掻き分けた。
すみません、と掻き分けられてゆく人達も、すみません、と人を掻き分けるアイツらも、
俺の隣りで前ばかりみているおまえも、俺も、
それから、この一瞬だけ、地球上のありとあらゆる生物・生命体、空気も虹も神様だってきっと笑うことをやめていた。
たった一人、
菊に囲まれて白黒の笑顔を浮かべてるお前意外は。
俺は、ポケットをまさぐる。
ライター。ライターは何処だ。
ライターライターライターライター仮面ライターVスリー。(いや、これは千石のくだらないギャグだ)
しかしライターではなく、ただの去年あたりのガムの噛みカスをつかんだ所で、横目で俺の顔を不遜そうに見上げるお前と眼が逢う。
違ぇよ。
俺が探しているのは煙草に火を着ける為のライターなんかじゃねぇよ。
(こんな葬式焼き払って、あの棺桶にあの千石なんかが大人しく寝転がってるわけがねぇこと、照明してくれる
ライターを探してるんだ。)
○○○あっくん星から、やってくる。○○○
千石のいうところの「オトモダチ」というそのくくりは随分と広範囲で、
空が闇のマントを広げたころには、沢山の人間がこの葬儀に出席していた。
同じクラスの人間はもちろん、山吹中3年、2年、1年、小学校の同級生やら、それから他校の生徒。
氷帝とか、青学とか、不動峰とか、その他テニス部関係の奴らは皆来てるみたいだった。
俺は、何故だか親類席の近くに座らされて、・・・・・・・・・・・・・・ああ、違う。違うんだ。
座らされたんじゃない、勧められただけだ。
そこにいつもの二つ縛りをやめて、髪の毛を下ろしたお前がいたから、俺も座った。なんとなく。
お前が、てっぺんから黒い地毛を生やしていて、その一部分だけ目立って、なのにうつむいてたから座っただけだ。
お前は、椅子を派手に鳴らせながら座った俺を見て、
「あっくん」
とだけ言って、また眼を布切れに埋めた。
小さいくせに、もっともっと小さくなってどうすんだと思った。
上を向いて欲しいのに、俺には一瞬だけしかそれを実行できない俺は小さいと思った。
でも、交通事故なんかで死んじまうお前はもっと小さい。(馬鹿だ馬鹿だ、相当な馬鹿だ!)
どうせなら、子供を守ってトラックに代わりに引かれたり、駅のホームに落ちた人を助けている途中で
電車に撥ねられたり、連続誘拐犯と格闘して死んだりとかすればいいのに。
そうすりゃまだ、格好良かったのに。
全然格好良かったのに。
でも、そんなカッコつけた死に方考えてる俺は、やっぱり小さいと思った。
「俺は死にませーん!」
と、千石は言った。(それはまだ俺がテニス部に所属していた頃の話で、)
山吹中から駅への帰り道、太一にひっぱられて部の連中と帰るハメになった時のことだった。
話はとてもくだらない話だった。
南の使っているギャッツビーは古い、なのでUNOに変えるべきだ、という話から、
東方のリップクリームがホソミなのも結構古いぞ、という話、(東方はあみだくじもできるんだぞ!と怒っていた)
室町のサングラスは校則違反だと言う話を通って、それからMEGUMIはあんまり好みじゃない、という千石の
驚き発言を通り越して、それから伴じいは何歳まで生きてるか、という話になったときのことだった。
「俺は死にませーん!」
と、たたた、と数歩先に走り、それから千石は空気を蹴り上げ右腕を掲げて夕陽に誓った。
ピンと立てた人指し指が太陽をずぶっと刺して、振りかえったらその先に刺さっていました!
なんてくらいに、尖った指先だった。
「またそれは唐突だな」
「千石さんはいつも唐突すぎですから」
南と室町がアホを見る目つきで遠くを見た。(実際アホなのだが)
でも俺は千石なら死にそうにねぇな、と普通に思った。
それは人間が空気を吸うくらい当然のことのように思える。
もし、万が一、千石が死ぬことがあるのなら、それは地球が消滅する時なのだろう。
それもぱっくり二つに割れて、だ。
ああ。あくびがでた。 くだらない。
横では、太一がずれたヘアバンを持ち上げていた。
「なぜならーーーー!」
ビシッ。
千石は振り向きざまに、俺の前方で黙って千石を見ていたを指差した。
「なぜなら俺は、貴方が好きだから!」
千石清純(16)がガクランよろしく頭もまっしろい奴なのだということにやっと気付いた瞬間であった。
「わーキヨ素敵!」
ぱちぱちぱちぱち!
は手を叩いて盛大に喜んだ。
千石のどーよ、俺格好良いでしょ的な顔を俺はマトモに見れない。見たらその瞬間殴って…いや、殴りだい。今。
(しかも101回めのプロポーズのパクリ)
「バカップルですー…」
太一までも、どこか遠い目をしていた。何を見ているんだろう。俺もどこか遠くを見たい。教えてくれ。何を見ればいい。
「ちゃん、俺は死なないよ!千年くらいはかるく生きてみせる!愛の為に!」
「じゃあ私も千年生きるね!あ、千年あったらFFは何作でてるかなぁ」
「1年に一作でたらFF1012くらい?…スゲー!すごいなスクウェアー!」
今やはるかなる存在になった二人を、飽きれるような溜息で巻いて、南は言った。
「アイツは絶対死なないな…」
「あっくん」
視界から小さくなってゆく南達。開く扉。閉まる扉。湿り気のある指先が右手を軽く掴む。
小さい手、 大きくなってゆく期待。 それを小さく握り返す。 大きくなってゆく不安。 小さい俺、
消えないお前、大きいお前。
そして、俺に必要なのは中くらいの勇気。
「行くぞ」
宙ぶらりんな気持の俺達は、裏口から逃避行をした。
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千石清純は、アイツの彼氏である前に、ヒーローであったりした。